ディストロとは ....
好きなバンドのCDやレコードを、個人で仕入れて販売する=流通する活動
通常の会社の業務とは違い、好きな作品、好きなバンド・レーベルに焦点をあてて
好きなように紹介していくという個人活動である場合が多い。主にパンク・ハードコア、特にアンダーグラウンドなシーンで繋がったコミュニティで活発。
その年の夏、僕は東京の23区外にある街、調布市つつじヶ丘の古いアパートの5階で、正規のルートでは流通していないレコードをひたすら梱包していた。
それは2010年の5月に始まった。海外のアンダーグラウンドな音楽シーンにアクセスし、現地のレーベルやバンドと直接e-mailでやりとりをしてレコードを輸入する。日本語で短い紹介文を書き、自分で作ったウェブストアに登録する。それが「ディストロ」だった。
日本ではほとんど流通していないレコードばかりだった。宣伝はmixiに投稿するだけ。それでも、まだ音楽を探している人たちは、そういう場所を見ていた。
だからなのか、偶然なのかは分からないが、売れた。最初の月の売上は5000円くらいだった。それが次の月には1万円になり、その次の月には2万円になった。少しずつ、しかし確実に増えていった。
いったいあの時、僕はどんな生活をしていたのだろう。学生時代からバンドをやっていて、卒業後はフリーターになった。何度かそれらしい瞬間はあったが、多くのバンドと同じようにアルバムリリースには辿り着けなかった。内輪から外に出ることもできなかった。
2009年、最後のバンドが解散した。
そして、時間だけが残った。
バンドは終わったが、音楽はまだ好きだった。レコードを集めることも続けていたし、それ以上に、音楽のレビューを読むのが好きだった。むしろ、情報を集めること自体が好きだったのかもしれない。
ハイパーイナフレディオという、半ば神話みたいなサイトをよくチェックしていた。当時すでに活動していたいくつかの個人ディストロから、レコードを買うこともあった。
そういったサイトに載っているのは、個人の趣味や偏りが剥き出しになったレビューテキストだった。音楽メディアの整えられた文章とはまったく違っていて、それが面白かった。
killieで活動していた吉武さん(現envy)が運営していたOto Recordsのサイトで、Zen Cartというツールを使って通販のシステムを作っている、という記述を見つけた。
頑張れば、自分にもできるんじゃないかと思った。
何のコネもなかった。ただの思いつきだった。
自分でもやれる!
が、思いついたはいいけど、何から手をつければいいのかは分からなかった。
今思い返すと、ジャンルの方向性にはいくつかの選択肢があった。通販サイトを作れたとして、何を取り扱うのか。そのコンセプトは成立するのか。すでに個人ディストロがいくつも存在している中で、自分がやる意味はあるのか。
最初に浮かんだのはヘヴィメタルだった。音楽にハマった原点でもある。でも好きだったのはメタリカやエアロスミスのような、完全にスタジアムクラスのバンドだった。個人で扱えるようなものではなかった。
次に考えたのは、バンド活動の頃に掘っていた70年代スタイルのパンクやパワーポップ。けれど、リスナーは高齢化していて、新しいバンドも多くはなかった。すぐに行き詰まる気がした。
NoFXやRich Kids On LSDのような、ハードコアとメロディックパンクの中間のようなものも好きだった。でもスケートボードは下手だったし、ハードコアのマッチョな空気にも馴染めなかった。
そうやって削っていくと、残ったのはEMOや、当時はまだ名前もはっきりしていなかった“激情ハードコア”のようなものだった。今でいうskramzと呼ばれる領域だ。
同じ頃、八王子のSENSELESS RECORDSで、Algernon Cadwallader(※)とLook Mexicoを勧められて買った。家に帰って聴いたAlgernon Cadwalladerがあまりにも良くて、すぐに友人にメールを書いた。
そのときに思った。この熱量を、そのまま扱うべきなんじゃないかと。
結果的に、ディストロを始めて間もない頃、Algernon Cadwallader本人にメールを送ってレコードを仕入れることができた。その後も何度も入荷することになる。初期の活動を支える、ひとつの軸になった。いま思い出しても、この選択は間違ってなかった。
(※Algernon Cadwallader … アメリカペンシルバニアのEMOバンド。2000年代の終わり頃からの「エモリバイバル」を支えた超重要バンド)
ディストロとは何か?を伝えるためのマクロ視点が激音夜話ZINE "Issue Of Distro"だがそれだけではディストロについては語り尽くせない。音楽シーンは個人個人の繋がりの積み重ね、つまりミクロな個人史も不可欠。
豊饒の海でいうところの『春の雪』的な第1章。無計画に走り出した人生=skramz
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