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風の還るところ

  • 南1-2ホール | J-90 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • かぜのかえるところ
  • 夢咲
  • 書籍|A5
  • 60ページ
  • 500円
  • 2025/11/30(日)発行
  • あらすじ
    魔法と獣神信仰がある異世界の話。
    街に住むことのない『渡り』という人々がいる社会のなかで、渡りの狩人として生きる少女ハルと、ハルと旅をする少女カディナ、そして二人と行動することとなった青年冒険者ソウガのお話。
    下記の本文は、3人が共同で魔獣討伐を決めた日の会話になります。

    (本文引用)
    「なあ…渡りの、しかも子供ってなんでこうなんだ」
    「こうとは?」
     布で手入れの終わった銃身を吹きながら、ハルは口を動かす。
     「向けられるのは悪意混じりの言葉と感情で、仕事をしても単に金のためだと言われる。その金も、冒険者のようにちゃんと貰えるわけじゃない。」
    拭き上げが終わった銃は魔法の光を反射して白く輝く。
     それを袋の中に戻しながらハルは続けた。
    「冒険者になるのも、渡りでは決して届かない力を求められる。届いたとしても…ボク達にとってのあんたみたいに、誰かに引き上げてもらわないといけない。」
    ハルは再び座って、ナタの鞘に手をかけた。
    「渡りから冒険者になって、増えた報酬金に思うことがあったかい?」 ソウガの問いかけにハルは頷く。 ソウガは宙に浮かぶ灯火に声をかけ、衰える光を盛り上がらせた。
    「難民、流民であれ人なのだからできる限りの施しをしよう…これがユンニアラ、はたまた三大陸にある渡りに対する建前だ。」 ソウガは絶えず音を立てていた窓の締りを直すと、本音を話す。
    「しかし戦火、魔族の活性化で住処を失った人間すべてを受け入れられるほど豊かな国は、存在していない。食料があり、土地もあり、人もいる…大国のユンニアラでさえ渡りを邪険に扱うことでもわかるだろう。その結果が、今の渡り制度の本質になる」
    「渡りには最低限の衣食住と、直接は殺さない、事なかれ主義か」
    ハルが唾棄した言葉に、ソウガは目を伏せる。
    「そうとも言うね、私も君たちが有用だから、使えるから補助員にしたまで。可哀想とか、同情から手を差し伸べたわけではないよ。」
    「…。」
    刀身を磨きながらハルはため息を吐く。
    「わかってる。カディナは純粋にあんたをいい人って思ってるだろうが、ボクはまだ、そう思えてない。」
    「わかるよ、きみの態度わかりやすいし。」
    ソウガは苦笑する。
    「…ただ冒険者なら、もの知ってるってなら教えてほしいことがある。」
    ナタを鞘に戻したハルはまっすぐソウガを見据えた。
    ハルの表情は動かないが、確かに思うところのある熱を感じさせた。
    「なんだい」
    「あんた、ヒスイって名前の魔法使いを知らないか…年はボクと同じくらいの、紺碧色の髪で…耳の上の髪だけ黄色くて…月色の目をしたした娘なんだ。」
    「ヒスイ…?知らないね。寧ろなぜ私が知ってると?」
    ソウガは首を横に振る。
    「通りで呼び止められたとき、あんた…ソウガからヒスイの物言いみたいなのを感じたんだ。ボク、ソウガの顔、見てただろ」
     ソウガは合点の言ったような声を上げたが、なお首を振る。
    「魔法使いは実利的な思考の人間が多い。多分どの魔法使い、魔導師もそう答えるだろうね。」
    「そう…だよな」
    相槌を打った後、ハルは目を机の下に向けた。
    ヒスイへの手がかりを失い、明らかに落ち込んでいるのがわかる。
    「勘違いは誰にでもあるよ、気にしないことだ」
    男は励ましの言葉を口にしながら部屋の出口へと向かう。
    「どこへ行くんだ?」
    「下の共同浴場に湯を浴びに行く。きみは女だし夜だしで、やめといたほうが良い。」
     顔だけをソウガに向けたハルに、男は行き先を告げる。
    「鍵は魔法で強化しとくから、安心して寝ると良い。おやすみハル。」
    その言葉とともに、ハルの目前の灯火は消える。
    「おやすみ…」
    ハルの言葉をと同時に、出口のドアが閉まる音がした。
    硬い錠の音が聞こえたのを確かめると、ハルは奥の部屋の扉を開ける。
    風の叫びは、いつの間にか収まっていた。

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