こちらのアイテムは2026/5/4(月)開催・文学フリマ東京42にて入手できます。
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まわって、まわって。

  • 南1-2ホール | R-11 (小説|純文学)
  • まわって、まわって。
  • 明里つゆり
  • 書籍|B6
  • 20ページ
  • 100円
  • 2026/5/4(月)発行
  • 5000文字程度の短編小説になります。
    バレエ小説ではありません。
    回ることしか出来なくなってしまった少女の物語です。


    ●本作は、摂食障害や強迫的な運動を扱う直接的な描写が含まれます。

    精神的に不安定な時期にある方は、閲覧にご注意ください。





    (冒頭サンプル)

    「お姉ちゃん、帰ろう」

     妹の声がする。しかし姿はよく見えなかった。踊り続ける私の視界は常に揺れ動く。どこに彼女がいるのか探す。すべてが滲んで、速く回る。妹は見つからないだろう。

     息が上がっていて、胃はからから、胃酸がのぼってきて喉が猛烈に痛かった。

    「痛い」

     そう発したが、言葉にはならなかった。息だけが漏れ出す。頭の上から足先まで様々な痛みがある。足先が一番痛い。

     空気を右手で切る。そして左足を軸にして一回転した。

     

     

     ◇

      レオタードを着た子供たちのなかで、私は冷や汗をかいていた。五歳になった私は真新しいバレエシューズで、何度もターンする。軸足がふらついて、うまく回れない。何度もそうさせられているうちに目が回ってきた。

    「チサさん! 一点を見て、もう一回」

     そんなことを言われても、どんどんフォームは乱れて、ついに転んだ。これで許してもらえるだろうと思ったが先生は「もう一度」と言うだけだった。

     私を見つめる子たちの目はどんどん怒りに満ちていく。「できない子」のために集団の時間が奪われている。自分だって見てほしい。

    「チサさん!」

     限界だった。倒れこんだ床は冷たい。回り続けた足先は鈍感になるほど痛くて、もう立ち上がれそうになかった。

    「立って!」

     先生は私を無理やり立ち上がらせた。それを振り払う。そしてドアに向かってできる限りの力で走った。足先の感覚が薄い。

    「チサさん!」

    「あーーー!」

     言葉にならない呻きに先生は一瞬ひるんだ。その隙にロッカールームに逃げ込んで、レオタードの上から服を着て、カバンを持って走ろうとする。

    「チサさん!」

     ロッカールームの入り口に先生は立っていた。

    「あなた、もう来なくていいです」

     やっと、だ。私は安堵した。仁王立ちした先生は私をにらんでいた。そう記憶している。なにしろ五歳児の記憶だ。正しく覚えていない。



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