公募落選作改稿作品も入っております。
少し過激で苦しい女の物語たちです。
注意書きとトリガーアラートを設定いたしました。
●本作品はR-18(成人指定)です。
直接的な性的描写、および一部にショッキングな表現や倫理的な葛藤を伴う事象が含まれるため、十八歳未満の方の閲覧・購入は固くお断りいたします。
●トリガーアラート
読者の皆様の安心のため、以下の項目をご確認の上、ご自身の判断でお読みいただけますようお願い申し上げます。
ホルモン療法に伴う葛藤。
「月と、踊る」より冒頭サンプル
背伸びして、つま先にぎゅっと力を入れる。ベッドの柵に手をかけて、寝ている彼女の顔をじっくり見る。昼過ぎだった。クリーム色のカーテンは開けられていて、レースのカーテン越しに弱い日の光が入り込み、彼女の顔の左側を照らしていた。
病院の匂いがあたしは苦手だ。薬品臭さと排泄物の匂いがする。看護師さんは慣れたら気にならないと言うけれど、ずっと臭うのだ。
あたしは、眠っている彼女のために仕切りとして使われているカーテンを引いてあげる。日の光はカーテンのレールの上からこぼれ落ちるだけになった。
「保護室からやっと出てきたのに、寝ちゃって。つまらないわ」
そう呟いてみても、彼女は眠ったままだった。暴れたりするときつい薬になるんだろう。あたし自身とても死にたいし、実際何度か体を包丁で切り付けてみて、ここに入ったのだから、人のことは言えないけれど、彼女は少し自暴自棄すぎると思う。こんな場所で暴れても、死んだりできない。ここは死にはとても近い場所だけど、自死からはずいぶん遠い場所だ。
「あーちゃん?」
もにょもにょと口を動かし、彼女はあたしの名前を呼んだ。
「起きた?」
「あーちゃんに今、起こされたの。昼ごはん過ぎた?」
彼女の髪は肩にかかってさらに背中の真ん中まであるのに、しばられていない。たぶん、異食を防ぐためだろう。衣服を飲み込めないようにするつなぎをきちんと着せられていた。
「過ぎちゃったよ。ナースステーションにはあるかも。聞いてこようか?」
彼女の骨ばった腕をあたしは撫でたかったが、手をのばしてそうすることはやめた。彼女の手に触れたことがない。あたしはポニーテールにした髪をくるくる弄りながら、答えを待つ。
「いいや。おやつの時間じゃない?」
「いらないもん。ヨウコさんと話したい」
寝返りを打った彼女は「私は寝たい」と言った。あたしはつまらなくなり、「おやつ取って来る」と言って、一度カーテンを出る。