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神術学校と夜見の勾玉

  • 南1-2ホール | I-90 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • しんじゅつがっこうとよみのまがたま
  • 古千谷早苗
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 190ページ
  • 500円
  • 2026/5/4(月)発行

  • ――うそをついたのは神さまだ。

    神隠しから“見つかった”少年にゆずられた、美しい白石――勾玉の素材。
    それを不思議な神術を使うための道具にするべく、彼は秘密を抱えた神術学校に入学する。

    平安中期風、夏の島を舞台にした和風冒険譚。
    優しい光のまたたく読後感です。


    【冒頭試し読み】↓

         序
     銀色のいかずちが天を裂く。
     だれの仕業でもない、夜にはじまった嵐だ。激しい風は雨つぶを右に左にかき回し、春の森をごうごうとゆすぶっている。
     青年はずぶぬれの体を動かして、ケヤキにかけられた長いはしごをのぼった。枝ぶりのよい太い木の上に、彼の家はあった。今から十二年も昔に、彼の先生が暮らしていた小屋だ。住む人のいなくなった家を、青年はよかれと思って、半ば勝手に住みついている。小屋が草葉に埋もれないように。その面影が、記憶のかなたにしまわれることのないように、彼は大切に守っているのだった。
     強い風をはね返し、青年ははしごをのぼりきった。木の葉がはりついた戸にふれて、首だけでうしろをふり返る。ざわめく森の向こうに、闇より暗い海が見えた。大きく波打ち、ところどころが渦を巻いた、すさんだ海。
     それから青年は、急いで小屋の中に逃げこむと、藤づるのかごから着物を二枚引っぱりだした。うちの一枚で頭をふき、あとの一枚は着がえにする。重い衣が手足にはりつき、気分が悪くてしかたない。遠くに雷鳴がとどろく中、青年はいらだちがきわまって、一人の小屋で舌打ちをした。
     雨はきらいだ。自分の力が万全でなくなるから。
     そもそも、本当は小屋を離れるつもりではなかったのだ。日が暮れた後に外に出た理由は、弟子から入った知らせにある。兄弟子同士がけんかをしているから止めてほしい、家の格の上下をめぐって争っているのだと。くだらない。この学校、いいやこの学問は今、そんなことをしている場合ではない。
     切り窓の近くで稲光がひらめき、青年の赤茶けたぼさぼさの髪と、狼のようなするどい目つきを照らした。足もとに焼き物のお椀が転がってくる。木の上にのっかる小屋はぎいぎいとゆれ、まるで海のシケに放りこまれたようにあやうい。
     青年が苦労しながら着がえを終えたとき、暴風雨の中を一羽のハヤブサが突っ切ってきた。
     暗い嵐を勇敢に飛びこなし、ハヤブサは窓の外の、水気でしなった枝にとまる。羽についた雨水を飛ばす前に、それははっきりとした人の言葉で、
    「先生」
     と、他でもない青年に向かって呼びかけた。
    「見つかったようだ」
     おだやかな大人の口ぶりに、緊張がにじんでいる。青年も心臓がひっくり返る思いで、お椀をけって窓ぎわにかけ寄り、ケヤキの枝間に顔を出した。髪は一瞬で乱れ舞い、強い雨がほほを打つ。着がえたばかりの衣がまた濡れはじめたが、なにも気にならなかった。
    「先生も行かれますか」
     先生、先生。その響きを頭の中でくり返し、青年はかすれた声で答える。
    「すぐに」
     いかずちがまた天をやぶり、雨雲の裏側を明るくする。
     青年は夢か現実かわからないような表情で、自分の首にかかる飾りひもに手を付けた。しゃれっ気のない、さみしい麻のひも。そこにただ一つくくられた勾玉から、深い青色の光がほとばしる。
     瞬間、青年の体は嵐の一部と溶けて、小屋の闇には美しい光のなごりがただよった。
    (→第一章 桜の隠し家へ)

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