傘が飛んでいった。
裏返ったまま、骨だけで、きっとベンガルあたりまで。
拾った人は、そのまま飛行機に乗った。窓から、ビューロとウィッグとパウダーパフとシャム猫が捨てられた。それぞれ渓谷に、牧場に、劇場に、キャンプファイヤーに飛び込んだ。雨あがりの水溜りに、拾えなかった視線と主語が沈んでいく。ぽちゃんと音がした。
触れられなかったものの重さを、どこに置いたらいいかわからないまま、詩になった。誰も引き取らないまま消えていく熱を、悼むためじゃなく、確かにあったという別の形に移し替えようとする詩集。骨組みだけになっても、傘は飛んでいける。
壊れかけたものの方が、遠くまで行けるから──
死んだ詩人のオーブン、骨雪のケーキ、ポールに引っかかったままの赤いピンヒール。
円が重なるとき、世界はほんの一瞬やわらかくなる。
🌂🌂🌂
わたしは──
あなたの知らない土地ーー『ベンガルまで飛んでいった傘』より