廉価版
〈あらすじ〉
けむくだちの織田信長、森蘭丸はアンドロギュノス!
夜は踊り、昼は戦に明け暮れる、戦国武将たちのアンダーグラウンド。
〈試し読み〉
(1)
かたわれ重く、出血のように蘭丸は雪隠にいた。うんうん唸って、ねんごろの契りに及んだかのごとき昨日、お屋形様とまぐわったのが本当かわからず、肚裏を弄するがごとく、家臣の慮らなかった愚痴が頭に響き渡った。時折、鳥のさえずりなどかすれ聞こえ、松葉の方を向くが、雪隠の雪囲いに落ちる模様に、まだらの赤を描く。それは、蘭丸の経血の色だった。
時は子の刻三ツ。
おそるおそる、雪隠に近寄る、浅井公方の姿があった。いただき公方とはいえ、戦国方の浅井長政は夜の冷えに腹をすぼめ、鎧直垂の上から金色袴を履いていた。彼もまさか、雪隠に蘭丸が入っているとは思いもよるまい。
「ひぃっ」
「うぅうぅうう~……」
長政は一瞬立ち止まり喉を鳴らした。戦場で何千の屍を見てきた男が、この声にだけは刃を向けられぬ。酒を飲み明かしたあとの、浅井の赤ら顔がまるでドロンケンのごとくうわばみだった。飲みに飲まれて、なぜ飲んでいるのかもわからないぐらい飲み惚けて、おそるおそるではあったが、もはや引き返すこともできず、浅井公方は雪隠の板戸の手をかけた。指先が冷え、金色袴の裾が不意に濡れた気がしたが、雪か、夜露か、それとも浅ましさか、長政自身にも判然としなかった。
「こにゃっく飲みたくじった……は、は、は……」
といって嗚咽。喉の音で潰れ、変な音になった。返事の代わりに、内臓から重たい呻きが返ってくる。
「うぅうぅ……っ、ひ、長政?」
戦場で聞いた断末魔などよりも、よほど生々しい。
「……ら、蘭丸?」
語尾が上ずったが、問いなのかもはやわからなくなる。内側では、蘭丸が、膝を抱えていた。腹の奥で、何かが壊れ、流れ、止まらない。血は温く、しかし確実に冷え始めている。昨夜の記憶が、どこまで現実で、どこからが夢だったのか、考えようとするたび、腹痛がそれを遮った。
昨夜の晩のことを、お屋形様は、覚えているのだろうか。
思い出して欲しいと思う気持ちと、思い出さないで欲しいという祈りが、同時に湧く。
それが混じり合って、吐き気になる。一方、外では長政が、立ち尽くしていた。板戸一枚隔てた向こうで、アンドロギュノスが血を流している。
〈登場人物〉
織田信長……お屋形様。毛むくじゃらの戦国武将。
森蘭丸……アンドロギュノス。
松永久秀……奸計を司る男。
他
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