宇宙と海のあいだの裏っかわ
海老原夫婦(えびはらふうふ)
――冒頭試し読み――
炊飯器のごはん、かたくて黄色っぽい。
プラスチックのしゃもじが、なぜか床に落ちてて、洗わないとなって、拾って、流しをのぞきこむと、洗いものがひとつもなかった。いつもなら食べっぱなしでそのままにしてあったり、排水溝にゴミがたまって水が流れないでゴミが浮いてたりするのに、今日は掃除がしてある。
しゃもじを洗うと、水滴が飛び散って、お母さんに見られてるみたいで、緊張した。わたしの足の指、お父さんのスリッパからアイスの棒みたいに、にょきってなって、ぼうって白く浮かびあがってる。冷蔵庫のカドのかたさ、台所のよこの勝手口からはいる冷たい朝の空気、わたしの体をすり抜けてく。
まな板の上においた卵焼き、すごくコゲてる。きれいな形じゃないけど、火が通ったところから固まってく卵を、ぱたんぱたん巻いてくのは、けっこう楽しかったなって。
熱々の卵焼きからは湯気がでてて、タッパーをくもらせてる。タッパーはすき間だらけ。しかたないから、失敗したウインナーもいれる。ウインナーはタコさんウインナーにしようとしたけど、どうやって切りこみをいれたら、わたしが想像するタコさんになるのかわからなくて、焼いたら足がひらきすぎて折れた。
お弁当をつつむバンダナはキティちゃんがいっぱいついてるいつものやつ。一年生のとき買ってもらった赤いやつ。使いつづけて消えかかってるキティちゃんが何人もいる。何匹もいる。中学生になったら新しいのがほしいけど、お母さんに言うときは、「ほしい」に「かな?」をつけるつもり。
ほしいかな? 声に出してみる。
机をくっつけて班になって給食を食べるとき、わたしのバンダナをみた野間くんが、「なにこれ」って言ってきて、わたし、あいまいに「キティかな?」って言った。そしたら、野間くんは、「は?」って言ってすぐ石川くんと話しはじめた。話がおわってほっとして、あとからけっこう言うようになった。かな?
会社のビンゴでお父さんがもらってきた青いリュックに、ハンカチとティッシュ、そしてキティちゃんのバンダナでつつんだお弁当をいれる。お金はお年玉のあまり三千円と二百円。お札はていねいにたたんで、おばあちゃんのためにって、お父さんが買ってきた白いお守りのはいった財布にいれた。お守りをわたす前におばあちゃん、死んじゃった。お守りをわたせてたら、もうちょっと生きられたかもしれないって思うと、ちょっとだけごめんなさい。
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