十年前、僕は大切な少女を失った。
名前はユリ。秘密基地のように通った洞くつで、笑い声を交わし、ラムネを分け合い、小さな願いを包み紙に書いては埋めた。
「誰かにいいことが起きますように」
その無邪気な祈りが、僕らの約束のように思えた。
けれどある日、ユリは帰ってこなかった。交差点の冷たい風だけが、喪失の記憶を僕の体に刻んだ。
十年後、大学で出会ったのは美月という女性。
その仕草、その笑み、ふとした横顔が、失われたユリと重なって見えた。
違うはずだ、と理性は告げる。けれど心は「彼女をもう一度見つけた」と叫んでいた。
再会なのか、偶然なのか。戸惑いながらも、美月と過ごす時間は、止まっていた季節を再び動かしていった。
手を伸ばせば、確かにそこにいる温もり。
しかし、母の冷静な言葉がその想いを遮る。
「ユリは、もうここにはいないのよ」
現実は冷たく、僕の願いは揺さぶられる。
それでも美月とともに、僕は十年前の洞くつを訪れる。
包み紙を折る指先、願いを声にする響き。
あの頃の記憶と、いま隣にいる彼女の笑顔が重なり合う。
失われた初恋を抱きしめるのか、新しい恋を始めるのか──。
選ばなければならない瞬間が、静かに近づいていた。
これは、喪失と再会をめぐる物語。
初恋の痛みを抱えたまま大人になった少年が、再び誰かを愛する勇気を取り戻していく。
懐かしい記憶の温度と、新しい恋のときめきが交錯する本。
「十年前に失った声と、いま隣にある温もり。
その両方を抱きしめることは、許されるのだろうか。」
読み終えたとき、あなたの胸にもきっと「初恋の続き」が静かに芽生える——