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はじめに
大人という言葉はとても使い勝手がいいから、何かを丸めこむのによく使われる。大人になったら好きにしていいから。大人なんだから泣かないの。大人だからという単語を使うだけで、ちょっと背筋をのばさないといけない気にさせられる。それがどんなものなのか、誰もが曖昧なイメージの中で片づけているけれど、そういうふわっとしたもので、まあいいと思うのです。
けれど大人だから持つことができた自由とか選択肢というものは確かに存在していて、たいていのことは、あなたのいくつもの選択によって、生活は進む。
時間はたくさんの贈り物を運んできてくれて、繰り返される季節のなかで、わたしたちは替えのきかない人やものに出会ったりする。場所とか気持ちとか考え方とか。手放せないものは、少しずつその数を増やしたり減らしたりしながら、あなたの一部になっていく。
だからこそ「手放す」という営みは、理屈でほどくにはあまりに言葉が追いつかない時間の中にあるのだと思います。割り切れない思いはぐるぐると巡り、時に、数えきれないどうにもならない夜をいくつも越えたりする。
手放さずにいたことには理由があって、手放す理由にも、また出会っていく。そこには長い時間軸が存在していて、大人になったからこそ辿りつけるような、穏やかな決意のようなものなのかもしれない。
本当のところはその正体も正解もよく分かりません。
ここに集められた5つの記録にすら、まったく異なる道のりや空気があって、諦めたり、つなぎ直したり、見つけたり、手放すことで取り戻したり。
あまりにままならない速度のたっぷりとした大人の逡巡。「手放すこと」と「手放さなかったこと」を捉える時間の中にあった景色を、ゆっくりとこの一冊に残していこうと思います。