レースカーテン越しに差す陽の光だけで明かりの保たれた、実家の居間。その真ん中で、弟は何することもなく、背筋を伸ばしてソファに座っている。顔を会わせるのは正月以来で、とくに話す内容もなく、どう声をかけたらいいか、なんとなくわからない。いったん自室に向かおうとしたところで、弟はゆっくりと振り返り、
「兄ちゃん、久しぶり」
「うん」
ふっ、と短く息を吐いて立ち上がり、こちらを向く。相変わらず、大きかった。会うのは、互いが帰省する正月か盆にほとんど限られるが、そのたび、百七十五センチはある僕をゆうに上回る背丈、首の際から水平に伸び、ほとんど直角に落ちる肩、それのせいで何を着ても寸胴に見える胸板、上腕に比して長い前腕、足先のように分厚い手のひら、などが視界に入る。高校生のころは柔道に打ち込み、黒帯を締めていた。卒業から六年ほどが経ち、二十も中盤に差し掛かってきたが、日を追うごとに大きくなっている。
しばらくして運転手の男が、
「観光客がいないと、この街はもう駄目」
「そうですか」
「コロナのときとかね、もう人がいなくなって、駄目かと思ったよ」
「でも大丈夫だったんですね」
「なんとかね。いくつかバイトをして、食いつないだんですよ」
「それはそれは」
「郵便配達とかね」
「はい」
「コンビニの夜勤とか」
「ああ」
「あとはチラシの封入とか」
「へえ」
男は黙る。
数秒のち、
「お兄さん、アルバイトとかはなんか、やってましたか?」
「塾講ですね」
「じゅっこう?」
「塾の先生」
「へえ。じゅっこうって言うんですか?」
「いや、塾、講師」
「ああ、塾の講師」
「はい」
「じゃあ頭いいんだ」
「いや、そういうわけでもないんですけど」
「そういうわけでもないのかあ」
「あなたたちは罪を犯しました」
講師を名乗る女は言った。
教室には、「生徒」と大きく書かれた白いTシャツを着た老若男女が机の前に座っている。女は続ける。
「あなたたちは創作を冒涜しました。規定を破り、特定の賞で生成AIを使った者、過去の作品を剽窃した者、特定のSNSアカウントから特定の作者に向けて無数の誹謗中傷を行った者、新人賞の下読みに賄賂を渡して便宜を図ってもらおうとした者、その賄賂を受け取った者…」
女はここにいる生徒たちの罪を挙げていく。
「あなたたちは創作をする者。芥川賞を目指す者。新人賞を経てデビューをしたい者。小説を拠り所にする者。あるいはすでに華々しくデビューしている者。そんなあなたたちに受けてもらう罰は…」
数秒のち、
「劣化」
劣化?
「あなたたちが持っている小説の技術。それを劣化させてもらいます。下手になってもらいます」
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