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名なしの僕と視えない彼女

  • 南1-2ホール | C-35 (小説|ミステリー)
  • ななしのぼくとみえないかのじょ
  • 虎渓理紗
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 160ページ
  • 600円
  • https://kakuyomu.jp/works/117…
  • 2024/12/1(日)発行
  • 僕はペトロだ。死ぬのが怖くて、師匠の元に駆け寄れなかった。師匠の最愛の弟子にして、師匠が自分を責めないのを悔やむ最低な弟子だ。


    名前を亡くし魔法を使う力を失った魔法使いは、旅に出る。
    遠い遠い故郷へと向かう旅。自分の名前を取り戻すための旅。
    どうして名前を亡くしたのか。
    それは、自分が一番よく分かっている。
    最愛の師匠は処刑された。魔女狩りという、極悪非道な制裁によって。
    師匠を告発したのは十三番目の弟子だった。

    ★収録作品★
    名なしの僕と視えない彼女
    And I have no name, I can't seeing her.
    遠い日の、泡沫の夢

    16世紀ヨーロッパ。混沌と近代に移り変わる頃。
    時代をかける名前のない魔法使いはたくさんの街と人に会う。
    自分に課せられた呪いの為、何年も何百年も。その旅路の果てになにがあるのか――。
    そして僕の罪とは?


    ★冒頭公開★


     いつだったのかは忘れた。
      綺麗な青空が広がる、春の訪れを感じたそんな頃。
      僕はなにもすることがなく退屈な日々に嫌気がさして、ふと旅に出ようと思い立った。荷物はなるべく少なめに、小さな革の鞄に詰めて。
      小さな植物図鑑と着替えと愛用の万年筆。
      紙と薬草、一枚の布。
      これだけ持っていけば十分かな。
      おっと、忘れていた。そう呟いて僕は古びた本を入れた。
      表紙には古い文字で書かれている。奇妙な図形と旧字体の文字と、埃まみれの紙が薫る昔から持っているもの。大事な、大事な、僕に無くてはならないものだ。
      その他もろもろ、薬草は自分で集めればいいし、お金は自分で作った薬草を売ればいい。だからお金は最小限。
      僕はその時、魔法使いと名乗っていた。
      最近ではその数を減らしていると聞くが、実際は僕とか何人かはいる。僕が魔法使いと名乗ることは少し嘘になってしまうのだけれど、仕方ない。  旅に出る前に僕にはもう一つやることがあった。
     「どこへ行くんだい」
     「西北西になにがあるのかを知りたいんです」
      家主にお礼を言って部屋の鍵を返す。
      数年借りていた自分の部屋を空にして、家財は全て売り払った。元々少なかった家財道具を売ったお金は少ししかなく、それも足しにして町を出た。
     「おばあさん。またこの町に帰ってくるよ」
      僕はおばあさんに小さな袋を渡す。
     「これお薬ね。お元気で」
      手を振ってその場を離れた。そのおばあさんとはもう二度と会えなかった。
      もうだいぶ昔の話だ。
      僕があまりにも暇で、住み慣れた街を離れて西へ、西へ、歩いて向かった時の事だった。今でこそ、馬車が通り交通はあるがその時はなかった。だから歩くしかなく、海は船に乗るしかない、そんな時代だった。
      訪れた国の名前は忘れてしまった。
      会った人の名前も覚えていないのだ。

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