瓦礫と樹木だけの世界。
鳥も昆虫も動物もいないこの場所で、人間は私一人。
ともかく暮らしをしていれば、まだ見ぬ誰かにどこかで出会すんだろう。
いつかの記憶と、今ここの記録と。
これをあなたが読んでいるのならば、いつか私とどこかで出会ってほしい。
……ほら、また音楽が聞こえる。
あなたもどこかでこれを聞いている?
いつともどこともわからない世界。
誰かを探しながら、文明の頃を懐古する。
ゆるっとふんわりなんとなくSF。
文明を失った世界への旅立ち。
誰かの気配をひたすらに探す記録。
炭だ。ほんとうに書けるものなんだな、これは木炭で書いています。
ええいままよとここまで来たが、案外生きていけるらしい。あらかたこの辺りも見て回ったし、誰もいないようなので、火を崩して少しぼんやりしていたら、この炭を見つけた。冷めた端の方を手にとって、そこいらに散らかっているコンクリート片に線を引いてみれば、思った通りの木炭の書き心地なので、今後はこうして色々なところに記録を残そうと思う。
思えば昔、画用木炭の作り方を何かで覚えたことがある。その当時はそんなこと、雑学収集の一端で、へえと思ったのみ。作ってみたことはなかったけれど。ようやくそんな、遊びの知識が役に立つ時が来たようだ。次に火を熾すときに作ってみようと思う。この木炭よりはもう少し精度が良くなるかもしれないし、そうでもないかもしれない。でもまあ、必要なものはどこかしらに転がっているだろうから、なんとでもなるだろう。ここはもう数年来、知っての通りがらくたのみ、でたらめの世界だから、なんでも揃っているし、何もないのだ。
日が落ちるのが早くなってきた。それに異様に埃っぽい。前の季節はこんなだったっけ? 一応、四季というものは残っているから、私が今、だいたいどのくらいの月に生きているのか、またどれだけ月日が経ったのかを推測することはできる。……しかしこんな生活の中で、一体幾年を生きてきたのかは、正確なところはわからないな。やっぱり記録をしておけば良かったんだ。少し前までそんな余裕もなく、筆記具も今、新たに手に入ったばかりではあるから、それは不可能な話であったのは、確かなのだが。
次はできれば紙が欲しい。廃墟と樹木のみの地上で、紙になりそうな繊維を見つけること自体は容易かもしれないが、紙を漉くために叩いたりなんたり……そんな手間をかけられるほどの細やかさが私にはない。良い感じに落ちていたりすまいかと、辺りをちょっと見てみたが、もちろんあんなぺらぺらの、繊細なものが、この世界に残っているわけもなかった。
だって、あれだけ頑強に見えた建築物すらも、植物の前に粉々なのだ。頽れた建築物に巻きついていく樹木の強大さ。もともとそれを破壊したのがなんだったのか、今となってはわかったことでもない。建築物だか植物だか、そのものらから記憶を取り出すことができない限りは、人類は永遠に答えを得られないだろう。あなたは、正確なことを覚えているか? 果たしてこれを読む人間がいるのか、わからないが……。
人の手がなくなれば植物は大きく繁殖すると、知識では知っていたが、よもや本当だったとは。だいたい、私がせっせと貯めてきた無駄な知識が、ここにきて活きてくる暮らしぶりになるとは思わなかった。……いや、活きてはいないか。確認せざるを得ないだけ。もしきちんとそれらを活用できていたのならば、もう少しはマシな生活で、すぐさま誰かを見つけることもできたかもしれない。
人工物でなく自然のものが、簡単に文明を破壊する。文明を破壊するのは人間でしかないと信じていたのは、人類の最後の傲慢だったなと、今となっては思う。自然はしたたかだ。人間が少なくなった途端に、世界はこの様。地上は樹木の楽園となった。
しかしこっちの方まで来てみれば、一人くらい誰かに出会すだろうと思っていたけれど、全く当てが外れてしまった。道中にもこの辺りにも、誰一人いない。もっと移動すれば、誰かしら一人くらいはいるものと思うけれど……。だがまあともかく、平和ではあることだ。他者によって脅かされる心配や恐怖感から、幾年ぶりに解放された。おかげでこんな記録を、書きにくく読みにくい筆記具でも書こうとすら思えている。まったく以前とは比べものにならないほど、静けさが心安い。
……さてやれるだけ書いてみたけれど、この記録は、一体どのくらい保つのだろう。フィキサチーフがあるわけでもなし、雨ざらし日ざらしで……。
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