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タンポポは電車の座席に根を生やせるだろうか

  • M-20 (ノンフィクション|エッセイ・随筆・体験記)
  • たんぽぽはでんしゃのざせきにねをはやせるだろうか
  • 鮎川 まき
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 100ページ
  • 1,000円
  • 2024/12/1(日)発行
  • 【文学フリマ39初売り】

    電車でスマホを眺めていると、白い影が視界を横切った。たんぽぽの綿毛だった。

    なぜこの季節に。なぜ車内に。


    「レンジで作る!茶碗蒸し」を失敗して、かき玉汁の海を作った日。

    猫がわたしと同い年になった日。

    適応障害の診断が下りた日。


    記録は記憶になり、記憶には足が生えてどこか好きなところへ歩いていく。

    時には日記のように。時にはエッセイのように。

    2024年6月から10月までの日々を書いた、鮎川まき初の日記本。



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    二〇二四年九月二十八日(土)

    電車でスマホを眺めていると、白い影が視界を横切った。たんぽぽの綿毛だった。

    なぜこの季節に。なぜ車内に。

    まばたきする間に景色に紛れてしまいそうな産毛を目で追う。どうせなら灰色のツルツルした床ではなく、どこかの座席に無事着陸してほしい。

    そしたらわたしは毎日その車両のその座席に座り「おっとこぼした」みたいな顔で、ちびちび水をやり続けよう。

    やがて青色の座席に美しく映えるタンポポが生える。乗客も職員も首を傾げる。

    「抜く?」

    「いや、でもせっかく生えたのになぁ……」

    邪魔だと感じつつ、誰も花を抜く当事者にはなりたがらない。通勤ラッシュの最中でも金曜日の終電でも、その席に座った人々はタンポポのためにお尻をずらし続けるのだ。

    たんぽぽはパイル地の座席に根を生やせるだろうか。

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