【新刊】SF系小説
地球から遠く離れたコロニー・セプトスに赴任したトリマルは、後輩のアラタと共に、嗜好品としての醤油を売り出すという難題に挑む。
しかし、栄養補給が目的の簡易食品が主流の時代、商売は苦戦。さらに、醤油と見分けがつかない麻薬が流通しているとの疑惑から、捜査官の目が彼らに向けられる。
トリマルはこのトラブルを乗り越え、新たな商機を切り拓けるのか?
※本作品には薬物等に関する描写が含まれます。
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●本文サンプル
「不可能」は根性なしの逃げ口上――そんな言葉を残した英雄が、いたとかいなかったとか。まだ人間が地球にしか住めなかった頃の話だ。
そもそも、ほとんどの人間は「不可能」には挑まない。大抵のチャレンジは、「できなくはないが難しい」か、「できなくはないが面倒」かだ。
妻の願いも、そう大それたものではないのかもしれない。「娘をドナーにせず大学に行かせたい」――それだけだ。だが、俺達のような一般庶民なら、腎臓や肺、せめて骨髄くらいは提供して資金を作り、進学や独立の資金にするものだろう。
しかし仕方がない。娘が成人するまで、まだ十年以上ある。コツコツ稼いで、せいぜい家計に貢献しようじゃないか。
不可能では全くない。ただ少し難しくて面倒なだけだ。このちっぽけなコロニーでの商売は。
メトロは朝のラッシュが過ぎ、人々は急ぎ足で去っていった。俺たちだけがホームに残っている。……