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〈青色〉の肖像

  • く-32 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • あおいろのしょうぞう
  • 明乃ゆえ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 182ページ
  • 600円
  • 2023/11/11(土)発行

  • 魔術師とは、
    何よりも強い魔力を持ち、千年に一度、世界を滅ぼし、再生する。
    魔術師とは、
    血肉の繋がりを持たぬ幼子を一人、後継とする。
    魔術師とは、
    千年の人生をゆっくりと老いていき、灰となってこの世を去っていく。
    魔術師とは、
    全てを例外なく魅了する。

    ──「書架の間、回想」より


    あらすじ
    半年前、魔術師の系譜である一人の魔法使いがその長い旅路を終え、消えた。これは、魔術師の『成り損ない』であったロォと、彼に纏わる人々と世界の記録。
    魔術師にならなかった青年・ロォ世界の何よりも強く美しく、長い命を持つ。彼は本に住まう妖精・リーリャと共に果てのない旅をしていた。御伽噺の存在である魔術師に対する羨望、ロォ以前の魔術師に対する憎しみ、誰とも分かち合えない人生の虚しさ──。終わらぬ旅路に、隣人は問う。「〈あなたの旅の終着点に、希望はあるの?〉」
     そして、ロォの盟友であったリブラは主を失った現代の『図書館』にて、ロォの原点を目の当たりにする。それは、師である黒の魔術師との暗く冷たい暮らしだった。


    本編7話+東京37で無配した短篇を収録。(短篇はブログに再録済https://sizu.me/ak1en2o_y3u1e/posts/f5r55etmtmcs
    加筆修正をした二版となっています。



    試し読み(本文抜粋)

     次第に夜明けが近づくと、流石に静けさが漂ってくる。酒よりも水がグラスに注がれて徐々に熱が失われ、朝の空気の予感が酒場を冷やしていく。酔い潰れて寝ている者が半分以上、飽きて帰った者が少々、まだ起きている物好きが数名といったところである。 
    「おい兄ちゃん、見ない顔だが」
    「……僕、ですか?」
     そんな時分、とうとう一人の男が声を掛けた。
    「見ない顔はアンタしか居ないよ。俺はシユウ、近くで小さい食堂をやってる。旅人さん、名前は?」
    「僕は、……ロォです。すみません、飲み始めてからずっと冷やかししかされなくて……拍子抜けしてしまいました。てっきり、古書を買い取らなかったことで嫌われたものだと……」
    「あぁ、そりゃ悪かった。アンタが独り酒の方が良さそうなものだから、要らん気遣いをしてたんだ。ここはみな知り合い同士だから、異邦人相手にはちょっとばかし恥ずかしがり屋が多い」
     この世界に於いて、閉鎖的な地域や集落は珍しくない。むしろ王都のように栄えている場所の方が少数であり、それぞれが周辺の地域と独自のコミュニティを形成し、商売をして暮らしている。もちろん、貴族などの位の高い者が地域を治めている場合もある。
     ロォが訪れているこの村は、肥沃な土地を生かした農耕が盛んで、酒造りにも適した土地だった。それぞれの家が様々な商いをしながら生活し、村民同士で暮らしを支え合っている。
    「いいや、それよかお前さん、こんな田舎に何の用だ。見たところ、王都の方から来たって感じだが……商人って身なりじゃあないな」
     シユウは魔法で、元居たテーブルから自分の酒瓶とグラスを手もとに移動させた。彼も、この地の者らしく酒にはめっぽう強い。強いが酒豪ではなく、普段は早朝の料理の仕込みに響くからと嗜む程度であったが、今夜は珍しい異邦人の話を酒の肴にもう少しだけ飲もうとしていた。
    「おや、良い推理ですね。確かに僕は王都の出です。実は探し物をして長いこと一人旅をしていまして」
     長いこと、という割にロォは若く、まだ二十年も生きていないように見える。
     魔法で姿を変えることは、普通に暮らしていれば面倒で魔力を大いに消費するため避けられるが、旅の者には珍しくない。ロォの見た目とその落ち着き払って達観した態度の不均衡は奇妙なもので、シユウは旅人が実は白髪頭の年を召した爺であることを疑ったが、一方で彼が嘘を吐くような人柄だとも思えなかった。
     おまけに人と会話をし慣れていて、意思表示が明確なのに嫌な感じがしない。人を下に見るようなことをしないが、オドオドとするような様子もない。シユウは旅人の誠実さに感心し、この村の高慢な元締めや商人たちに態度を見習ってほしい、と考えながら酒を呷った。
    「……探し物?この街には何もないがなぁ」
    「何処へ行ってもそう言われます。けれども、何処に落ちているか分からないのが、探し物です」
    「何を探してるんだ?」
    「物、というよりは……、説話の収集に近いですね
      青年は、傍らの荷から何やら高価そうなものを取り出す。起きていた全員がその無防備さと、物の異様さにギョッとした。
    「お、おい……何だソレ」
    「これは本です」
     どん、と音をたててカウンターに本が置かれる。大きさも重量も明らかに通常のものとは違うというのが、一目で分かる。そして、最も異質なのはその装丁だった。本というよりも、まるで宝石箱のように華美な装飾が施されていて、どこもかしこも目が痛くなるくらいに輝いている。極めつけには、本そのものが誰が見ても分かるほどに強く禍々しい魔力に満ちており、近くで見ているシユウは、何か漠然とした恐ろしいものに呑まれる錯覚に全身が包まれるような錯覚がした。
     二人の背後で、この光景を目の当たりにして静かに席を立った気弱な者が数名居たが、それ以外は怖いもの見たさで引き続きロォとシユウのやりとりを伺う。寝ている者は強い魔力に当てられ体を揺らしたが、熟睡しているのか特に起きる気配はなかった。
    「この本、中身は未完成の歴史書でして。途中からは、僕の研究に必要な文献などの収集に使っています」
    「いや、ちょっと待った。そんな趣味の悪い歴史書があるのか?まず本ってのはそんな……」
    「あぁ、これは装丁を施した奴の趣味です。酷く悪い趣味でしょう。それに、素人が魔力で製本をした物なので、金銭的な価値は全くありません。歴史書は図書館に行けば閲覧できるものですし、研究は僕の趣味でしかありません。本物の価値が分かる人は、交渉しに来たり盗みに来たりなんて、くだらないことはしませんから」
     素人がこんなに趣味の悪い装丁と魔力の込め方をするだろうか、とシユウの顔が引きつる。それを察したように、ロォが問いかけた。
    「魔術師の伝承をご存知ですか?」

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