私たちは一九二五年のその夏、ドイツの父なる
ライン河をさかのぼり、二人だけの夏を静かに楽
しもうと決めた。
ケルン、リューデスハイム、フランクフルト、
ミュンヘン。
青く豊かなライン河を船で数日をかけて遡り
ながら、私たちはそのなだらかな河畔の丘陵に広
がる葡萄畑や、ベルリンにはもうない木と漆喰の
古い街並みの散策を楽しんだ。
(あれ、なんだか体が……)
麻生涼也(あそうすずや)は机に突っ伏し、
何度か自分の身体をさすった。
凉也は中学三年生だ。今は三限の英語の時間。
若い女教師が読み上げる教科書の英語が、まる
で邪な呪文のように聞こえた。
頭がぐわんと揺れた。
今は五月の終わり。梅雨前の、比較的過ごし
やすい気温が続いていた。