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短編集『Insel』

  • 第二展示場 Fホール | ち-68 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • いんぜる
  • みたか
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 66ページ
  • 500円
  • https://mtk-sea.hatenablog.co…
  • 2023/5/21(日)発行
  • 生きにくい。

    すぐに息ができなくなる。

    ここは深海だ。

    真っ暗で先が見えなくて、呼吸ができない。

    ——生きづらさを抱えた人たちが、もがきながらも自分の道を歩んでいく短編集。


    【収録内容】

    ※試し読みはタイトルをクリック


    『Tiefsee』(書き下ろし)

    みんなは苦しくないのか。

    上手く息が吸えるのか。

    こんな海の底でも、苦しくないのか。

    おれは押し潰されそうだ。

    ここでは生きられない体なのかもしれない。


    『どこにも行けない』

    記憶が、わたしを縛りつける。

    陸地に縁取られた海面と、鮮やかな緑。

    わたしは初めての一人旅で、ようちゃん先輩が生まれた町に来た。

    海を眺めていると、ある女性に声をかけられる。

    ようちゃん先輩に思いを馳せるわたしは、現実と妄想が入り混じっていく……。


    『虚無を食む』

    なんで人間は食べないと生きられないんだ。

    もっといっぱい食え、もっと美味そうに食えと言われる。

    言われれば言われるほど、食べることが嫌いになる。

    そんなことも知らずに、痩せた俺の体を見るたびに親も友達も言ってくる。


    『波打ち際』

    全てを飲み込んでしまった海は、途方もなく大きい。

    水族館を訪れた私は、あの日のことを思い出す。

    「海の中はね、とても美しいんだと思う。そうであるとあたしは願ってる」

    六年ぶりに再会したみさきちゃんは、そう言ってざらついた本をするすると撫でた。

    みさきちゃんの手は、すっかり大人の手になっていた。


    『Insel』

    おれは誰かの「生」を感じたことがない。

    手を伸ばそうとしても、ぬくもりは手に届く前に離れていく。

    海に浮かぶ島を想像する。

    水面から体をどっしりと出した島は、全部女だ。

    アーリーは先週から頭に女を飼い始めた。

    髪全体は明るい茶色なのに襟足だけ緑色だから、おれはそれを島だと思った。


    『嵐を待つ』

    この雨雲を全部かき消してしまえるような、嵐が来たらいい。

    親父みたいにはなりたくないと思っていた。

    それなのに俺は、親父と同じ道を歩いている。

    俺もこんなふうに、綺麗に生まれ変わることができたらいいのに。

    纏っていた重い皮膚を脱ぎ捨てて、違う人間になれたらいいのに。


    『手にしていたもの』

    永遠に続いていると思っていたぐるぐるには、ちゃんと終わりがあった。

    私は小さな村で育った。

    山と田んぼがあるだけで他には何もなかったが、それが私の全てだった。

    不自由など感じたことはなく、ただただ自由だった。

    なんでもできそうな気がしていた。

    でも、母以外の生き物が怖かった。

    自由と不自由を知った、あの頃の話。


    『Schiff』(書き下ろし)

    ダメな自分を自覚するたびに、頭の中の母親が「出来損ないだ」とおれに言った。

    その声を聞くと、おれの体は熱くなる。

    頬も喉も熱くて、がぶがぶ水を飲んでも足りないくらいだ。

    ずっと海の底で沈んでいるのに、水が足りないなんて変な話だ。


    ・『Tiefsee』『Insel』『Schiff』は連作短編です。

    ・一部加筆修正をしております。


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