東京の一人暮らしを詠んだ短歌集。122首です。
▼歌集より
朗らかなそよ風肌を撫で何も見えないけれど風の方みる
「おはよう」を言わなくなった生活の代わりに排水溝を触れる
取り出して落ちて拾ってこぼれてく洗濯かごを使わない意地
前をゆく歩きタバコを走り抜くささっとしかし大袈裟にゆく
この家のだれかが麦茶をつくったりこたつを出して片付けている
お互いに世話をし合っているつもり 聞いてるわたし 料理する母
だんだんと使う言葉が似てきても合わせてるだけ別の人間
「私はあなたのsomebody elseじゃない」と笑った横断歩道
そよぐ風空のパレットで白をとく自由自在に雲を動かす
道端で歌って踊りはじめれば知らない人のふりをするきみ
吊り革につかまる右手窓越しに目が合いぎゅっと握る左手
マグカップ 歯ブラシ タオル 箸 まくら きみがきてから買ったものたち
適正な判断なんてきっとない 少しの恣意と、なんとなく風
ありたけのスプリンクラーを全開に大きいプールで遊びたい夏
クーラーのきいた部屋から仰ぐ空カラッと澄んだ青は偽物