こちらのアイテムは2024/5/19(日)開催・文学フリマ東京38にて入手できます。
くわしくは文学フリマ東京38公式Webサイトをご覧ください。

幼馴染みにさようなら

  • 第二展示場 Eホール | お-13 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • おさななじみにさようなら
  • 藍間真珠
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 300円
  • 2024/5/19(日)発行
  • 私はいつだってどこでだって一番になれない人間だった。
    近未来を舞台に、少女達三人の別離、変化を描いた短編。


    冒頭
     私はいつだってどこでだって一番になれない人間だった。
     クラスで一番頭がよいのは町田君。私は二番目か三番目。たまに宿題に困った友達に頼られることがある程度だ。
     四つ下の妹たちには、いつもお父さんお母さんを占領されている。私が一番に優先されるのは、誕生日の時くらいだろう。
     でもそんなことは、正直どうだってよかった。私が最も辛いのは、幼馴染みたちの中でいつも二番手なことだった。
     今日も私は凛香と志織の後を、微笑みながらついていく。冷たい風に首をすくめながら、靴音をさせて歩いている。この通学路が苦痛になったのはいつからだろう。話題に入れないわけじゃあない。話しかけてくれることもある。でも私は決してその中心にはなれない。大概の時間、私は二人の笑顔を見守る係だ。
    「昨日返ってきたテスト、隠そうと思ったのに親にばれちゃってさ。大変だったんだー」
     ランドセルを背負い直した凛香が、思い出したようにそう言う。
    「そりゃあ勉強もしないで挑むからだって。隠すなんて無理なのに」
    「そういう志織だって良くなかったくせに」
    「凛香ほどじゃないから大丈夫」
     二人の掛け合いはいつもこんな感じだ。勉強のこと、家族のこと、友達のこと、色々だけれど、二人はいつもざっくばらんに話してる。
    「私と比べないでよ。ほら、桜子が笑ってるよ」
     そこでちらと凛香の視線が私へと向けられた。でもそんな風に言われても、こっちは返答に困る。あの漢字テスト、普段授業を聞いていればできるくらいのレベルだったけどな……だなんて言ったら、また二人から微妙な反応が来るのがわかりきっているから、絶対に言わない。
    「お母さん、すぐ桜子と比べるんだよね。私も桜子くらいの頭があればなぁ」
     二人の愚痴は続く。びゅうと吹く風が、私たちの間をすり抜けていく。結局何も言えない私は、ただにこにこしながら聞いていた。
     同じマンションで同い年だから。そういった理由で、私たちはいつも一緒だった。小学校に上がってクラスが別になったとしても、そんなのは関係ない。二人はいつも笑顔で私を呼ぶ。それが当たり前みたいに。
     でも私は決して、誰かの一番目にはなれない。
    「無理言わない方がいいよ。そこは凛香ママに理解してもらった方が早いよ」
    「どういうこと?」
    「頭のできは変わらないって」
     くつくつと笑う志織を見て、凛香はわかりやすくむくれた。反応に困った私は、やっぱりにこにこと見守るだけだ。
     こうなったのはいつからだろう。何がきっかけだったんだろう。私たちいつか結婚しようね。ずっと一緒だよ。そんな風に約束して屈託なく笑い合っていた日が、今は何だか遠かった。
    『二人組を作ってください』
     学校の授業の中で、これが一番苦手な声かけだった。それまで仲良くしていた私たちの間に、明確な線が引かれてしまう瞬間だった。
    『桜子なら、誰とでも仲良くできるでしょう?』
     まるで言い訳みたいにそう口にしたのはどちらだったのか。
    『凛香のことは放っておけないから』
    『口うるさい志織に付き合える人はいないから』
     互いにそう罵り合うような振りをして、そうして二人は手を取り合ってしまう。その結果、私はぽつりと一人取り残される。それから慌てて周囲を見回しても遅い。大概の人は、もう誰か特定の仲の良い子と、二人組を作ってしまっているのだ。
     三人並んで椅子に座れないから、バス遠足も苦手だった。後ろの席はうるさい男子に占領されてしまうから、その手も使えない。私はいつも、大して仲の良くない誰かと隣の席になる。
     二人は私のことを大事にしてくれる。いつだって私を呼んでくれる。でも凛香にとっては志織が、志織にとっては凛香が一番で。私はその次。この順番が覆ることは、決してなかった。 「桜子みたいになれたらなぁ」
     二人はよくそう言うけれど、本当にそうなったらどう思うんだろう。
     ――なってみなよ。
     その一言を飲み込んだ私の、胸の奥に何か重たいものがたまっていく。二人は私のことを大切にしてくれているのに。大事に思ってくれているのに。それ以上を望むのはいけないことだ。それはわかってる。でもぐずぐずと胃の底で濁った何かが、大きくなっているのは確かだった。
     誰かの一番になりたいなら、二人から離れるしかない。
     それもわかってる。だって私たちの仲に入り込める人はいないから。飛び込めるような度胸のある人はいないから。私たちはこのままだと永遠に三人だ。歪な三人のままだ。

ログインしませんか?

「気になる!」ボタンをクリックすると気になる出店者を記録できます。
「気になる!」ボタンを使えるようにするにはログインしてください。

同じ出店者のアイテムもどうぞ

ベアトーシャの朝星幼馴染みにさようなら装って、エスプレッシーヴォさきわけ、さきがけファラールの舞曲アパートメントドリームwhite mindswhite minds 第二部完結記念誌祈りのソナチネその願い、届かなくとも

「気になる!」集計データをもとに表示しています。