こちらのアイテムは2023/11/11(土)開催・文学フリマ東京37にて入手できます。
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ゲリクマとの戦い 第1巻

  • 第二展示場 Eホール | い-06 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • げりくまとのたたかい
  • 吉浦俊介
  • 書籍|B6
  • 230ページ
  • twitter : @yoshiura556
  • 「だからぁ、おらァ見たんだよォ!」

     よく日焼けした、小柄な農夫が叫ぶように告げる。

    「クマが、森ん中で焚き火してたんだァ……おらァ、この眼ではっきり見た!」

     千歳空港より道道十号線を進んだ先にある厚真町、知決辺川の脇に、今日の取材先である大野老人の家はあった。農道脇にぽつんと一軒だけの家で、納戸には年老いて毛並みの悪くなった雑種犬が繋いであった。友紀たちには目もくれず、あてもなく延々と吠え散らかしている。

    「おらァ、確かに見たんだ!」

     先ほどから何度も、「確かに見た!」を繰り返している。日焼けが深く影を刻みつけたようなシワがくしゃくしゃと、小さな顔をさらに萎めている。カサついた唇からは、一本だけ生え残った前歯が時折覗く。そこから吐かれる息は酒臭い。

    「その現場まで、案内していただけますか?」

    「んにゃ。こっちさ、こっち」

     老人は家の裏手の山道を歩き始めた。左右に熊笹が生い茂り、鬱蒼としている。

    「ここんとこの道をずーっと行くとだ、堰のほうにまで続いとるで、おらァ、毎日夕方にここを散歩しとるだ……おらァ、確かに見た!」

     老人は、数メートル進むごとに振り返ってこの「確かに見た!」を繰り返している。友紀は務めて笑わないようにしているが、水嶋が笑い出しそうになるたびに、肘をつついて牽制し続けている。

    「ここさ!」

     しばらく進むと、急にひらけた場所に出た。木々が光を遮っておらず、陽の光が当たっている。広場のようになった場所だった。

    「ここんとこさ、ほら、みてみね」

     そのひらけた場所の中ほどに、枕ほどの大きさの石が三つ、円形に置かれている。近づいてみると、その中心部に、灰と消し炭が砂に混ざっている。確かに焚き火の跡らしかった。

    「な?焚き火した跡があるべ?もともとは埋めて隠してあったんさ。だけんども、クマを見た次の日に、俺が確かめに行ったんさ。掘り起こしたら、炭が出てきた。おらァ、確かに見たんだど」

    「水嶋くん、ここの写真、撮っておいて」

     水嶋が指示された通り、焚き火の跡を一眼レフで写真に撮った。

    「えー、つまりこういうことでしょうか?先週の木曜日の夕方に、大野さんはいつも通りこの山道を散歩していた。すると、ガサガサと物音がしたと。忍び寄って様子を見に行ったら、この石の上に三匹のクマが腰かけて、焚き火をしていた、ということですね?」

     友紀は岩に座って、

    「こういう感じでしたか?体勢は、どうですか?もっと前かがみ?」

    「うんうん、そんな感じだったねぇ」

    「水嶋くん、写真撮って」

     友紀は岩に座ったクマを再現した自分の姿を、写真に撮らせた。

     これこそが、今の友紀の仕事である。

     北ノ海新聞科学文化部・超常現象特捜部―――これが今の友紀の肩書きであった。UFO、宇宙人、予言、幽霊、妖怪、未確認生物、都市伝説、透視能力。道内で発生したあらゆるオカルト事件を追跡し、記事にするのがこの部署に課せられた仕事である。もちろん、超常現象なんてそんなにありふれたネタではないので、普段はもっと真っ当な、文化系の記事を書いているのだが、読者からの怪奇ネタの投書や依頼があれば、こうして現地調査を行うのである。

    「クマは、どうやって火を起こしたんでしょうか?」

    「んにゃ、百円ライターで火をつけてたよ」

     水嶋がまたしても口を押さえて吹き出したので、友紀が脇腹を肘でつつく。しかしその水嶋の様子を見て、また老人が「おらァ、この目で見たんだ!嘘じゃねえ!」を繰り返し始めた。

    「わかりました、大野さん、もっと具体的に教えてください」

    「うん。薪を集めてきて、三匹のうちの一匹が、肩にかけたカバンから、オイルライターを取り出したんだべな。それもって、シュボッ、シュボッと火をつけようとしたんだが、どうもオイル切れだったみたいでよ、全然つかねえのを見かねて、別のクマが、百円ライターを貸してやったんだ。それで、火ィつけたんだ。そんで、石っこの上さ座って、魚に枝さして、炉端焼きみてえに焼き始めたんだ」

    「魚は、どんな魚でしたか?」

    「う〜ん、鮭のようだった気もするけんど、ニジマスのようにも見えた」

     鮭とニジマスでは大きさに大分差があるのだが……。

    「それで、魚を食べ始めたと」

    「うん、しかしな、おれァ、そんとき、酒を飲んだ後だったから、しゃっくりが出そうになったんだ。おらァ、酒飲むといっづもしゃっくりが出るんだ。だから我慢できんようになってしまって、ひくっとやっちまった。それで、クマが三匹、バッとこっちのほう振り返ってきたもんで、おらァ怖くて怖くて、一目散に走って家帰って、鍵かけて布団入って震えてた。おっかなくってよお……」

    「……それで、どうなりました?」

    「うん、気づいたら寝てて、朝になってた」

    「そうですか」

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