こちらのアイテムは2023/11/11(土)開催・文学フリマ東京37にて入手できます。
くわしくは文学フリマ東京37公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

アンソロジー夢でしかいけない街

  • 第二展示場 Fホール | す-28 (小説|アンソロジー)
  • あんそろじーゆめでしかいけないまち
  • 左沢森 伊藤なむあひ 大木芙沙子 オカワダアキナ 尾八原ジュージ 紅坂紫 坂崎かおる 鮭とば子 白川小六 瀬戸千歳 谷脇栗太 橋本ライドン 本所あさひ yuca ヨノハル Raise
  • 書籍|B6
  • 212ページ
  • 1,500円
  • https://note.com/seto_chitose…
  • 2023/5/21(日)発行
  • 「あなただからだよ」
    声に導かれてゆく16編の夢物語。

    カバー有/オビ付き
    カラー口絵12ページ+本文196ページ
    2024.05.18 発行の再増刷版です

    写真・短歌:ヨノハル「渡河」

    鉄匂う街のあなたに逢いに行く選ばれたように夢に目覚めて
    呼びようのない日々があり記憶とは心のためにともす常夜燈

    小説:オカワダアキナ「ヒッポカンピ 」

    死にかけている父親をポセイドーンと呼んで、自分のことをトリートーンと呼んでみようか。父の脳みそのヒッポカンポスたち——海馬たちはすっかり弱っていたが、ある晩おれの部屋にやってきた。いつか来ると思っていた。もう間に合わないかとも思っていた。

    小説:尾八原ジュージ「春の夜の歌」

    わたしは水槽を乗せた台車に手を添えて、石畳の上に立っている。煉瓦色の色鉛筆みたいな細長い家々が、幅の広い運河の両側に軒を連ねている。知らない景色をぼんやりと眺めていると、突然運河の豊かな水の中から、白い手がすらりと出てきてひらひらと揺れる。

    小説:坂崎かおる「ペンギニウムの子どもたち」

    ペンギンは増殖した。その増殖の度合いが非常に急こう配だったため、そののち指数関数を表す統計の教科書的例の代表として採用されるほどだった。本来の生息地である南極や海洋諸島からあふれ、はみ出て、南半球のあらゆる国へと押し寄せた。

    小説:谷脇クリタ「海氷街の羽海子」

    ベッドの中で羽海子が「いってきます」と言うから、私は「いってらっしゃい」と返す。肌の触れ合う距離で寝息を立てる彼女の横で、私はひとり取り残される。「いってきます」はいつも羽海子で、「いってらっしゃい」はいつも私。逆になることはない。

    小説:白川小六「蜘蛛を助ける/蜘蛛に助けられる」

    七階より下はみんな水で、ビルからビルに行き来するには窓や屋上から舟に乗らなければいけない。電車は密閉性をうんと良くして、高架のてっぺんにある駅からジェットコースターみたいな角度で水底へと降りていく。人類は段々と適応して、新しく生まれる子どもたちには鱗やエラや水掻きがあって、発声器官がなくて……。

    漫画:橋本ライドン「夢の約束」

    手を貸して ひっぱりあげてくれる?

    小説:本所あさひ「海底街と斎藤さん」

    部屋のなかを見て即決したウミガメは、櫂のような前足を掻き、洞穴型の一軒家から外に出てきた。尖った口先から真珠大の気泡が幾粒もこぼれ上がり、はるか頭上へとのぼっていく。海面から降りそそぐ太陽の光は波の揺れで屈折し、細やかな集光模様を織りなして、海の底の住宅地を照らしていた。

    短歌:紅坂 紫「波の彼方(あなた)」

    春風のひかる川辺の対岸のひかるベンチが頭痛のようだ
    夜にしかきみは会おうとしないけどきみが来たならいつでも朝日

    小説:伊藤なむあひ「夢街奇譚」

    デイリーユメザキ夢街店のグランドオープンは、夢の日にちなんで六月十日の午前0時となった。小さな店舗の前には開店を祝う花輪などなかったが、開店三十分前にも関わらず既に二十人近い行列ができている。

    小説:Raise「閘」

    唇を撫でる草いきれの質感に、おれは耐え続けた。自分がもののように扱われる満足は、枯草の断片に何度となく切り付けられる痛みに霧散しつつあった。死体ではなく、暇潰しに暴力を振るう相手こそ探し物だったのかもしれない。

    小説:瀬戸千歳「餓虎」

    おばあちゃんはあの頃のままで、わたしはいまのわたしのままで、もう壊されてしまった小屋は敷地の隅にまだ建っていて、暗い二階にはわたしとほとんど歳の変わらなそうな和馬さんがいて、黒い服を着ていて、わたしは彼女のか細い手をとって三和土を通って踏み石を蹴りあげて家のなかへ、それから広々とした和室へ戻り、おおきく息を吸ってからあらゆるものをめちゃくちゃに、めちゃくちゃにする。

    小説:鮭とば子「シャク太郎の呪い」

    シャク太郎はまたこの女は、馬鹿げたことを、とあきれた顔をした後、そういうことには興味ない、意味を感じない、と尾びれを左右に振ってみせた。やはりシャク太郎は理性的である。

    小説:大木芙沙子「みずうみ」

    いろいろなことが、もうすこしうまくできるようになればいいのに。みずうみはよくそんなふうに思った。せめて、もうすこしでいいから。そう思うたびに目をとじて、瞼のうらにある湖をながめた。湖はいつでも、白くてさむくて美しかった。湖畔には針葉樹が林立し、枝葉に雪をつもらせていた。湖畔にたちならぶ背の低い、茶色い屋根の家々。きんとひえた空気、いまにも落ちてきそうな灰色の空。湖面はさざ波ひとつなく凪いでいた。

    連作イラスト:yuca「忘れるために」


    写真:ヨノハル 装幀・編者:瀬戸千歳
    書影はオビ付きの場合です。

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