旅をすることで失ったものへのレクイエムとして
もちろんこうして出展するということは、旅についてそれなりに肯定的なわけですし、旅の明るい思い出はいくつもあるわけですけれど、あらためて自分の旅について考えると、やはりそれだけではないよな、と感じないわけにはいきませんでした。身体の深いところに蓄積されて絡まりあっていたその「感じ」を、掬いあげ、ほどいてみようと試みるなかで作られたのが、この一冊です。最終的にはその「感じ」を、できる限りありのまま写しとったものとなりました。旅のスケッチというのはそういった意味です。そこに写しだされたものは、旅をとおして失われていくものごとについての話であり、それを語ることはいわば、失われたものごとへのレクイエムのようなものだったのかもしれないといまになって感じています。 この本は文章と写真から成り立っています。話はひとつの夜景に始まり、もうひとつの夜景に終わります。それぞれ二十三歳と二十五歳のころなので、そこにはおよそ二年間という月日が流れています。その月日は、たかだか数十ページの本で描写するには長く、しかし、目下の「感じ」が総体としての二年間に由来している、より正確には、二年間で目にした風景の総和に大きく由来しているという点において、すべてを省くことはできず、結果として、数十枚の写真に託すかたちになりました。うまくいけばその写真から旅情が立ちのぼってくるはずです。夏の夜、耳を澄ますとどこかから漂ってくる、祭りの太鼓の音のように。いずれにしても文章と写真をあわせて楽しんでいただけたら僕としてはとても嬉しいです。