【概要】
島根県鹿足郡津和野町で数年間の青春を過ごした首都圏からの「移住者」による同人誌です。
地方移住の前後で生じる実存的な不安や、それと向き合うなかで形成されるアイデンティティについて考えています。
いわゆる地方移住者はもちろん、進路選択や就職活動をはじめ、自身のキャリアと社会との接点で生じる悩みにも通じる内容になっていると思います。
【目次】
編集部「はじめに」pp.5-8
鈴木元太「地域活動と高校生の〈主体性〉──生活・活動・進路の語りから」pp.9-22
石井雅巳、畔柳知宏、山本竜也、瀬下翔太「[座談会]不安の先で」pp.23-49
池本次朗「結び目をゆるめる」pp.51-57
太田知也「「田舎ぐらし」を表現するテイストについての一考──『ソトコト』、スローライフ、そしてインスタグラミズム」pp.58-71
太田知也「おわりに──道草の予示に抗して」p.74
【奥付】
企画・編集:瀬下翔太、太田知也、鈴木元太、池本次朗
アートディレクション/デザイン/DTP/写真:太田知也
発行者:瀬下翔太
発行日:二〇二二年十一月二十日
印刷所:株式会社グラフィック
【「はじめに」より】
本誌『移住と実存』の主題は、地方移住の前後で生じる実存的な不安や、それと向き合うなかで形成されるアイデンティティについてである。
地方移住については、すでにさまざまな言説がある。少子高齢化や都市への人口集中を背景に地方への人口移動を訴えるものや、地方移住者のゆったりしたライフスタイルや働き方を称賛するもの、移住者を受け入れようとしない閉鎖的で冷たい地域社会を批判するもの──。二〇一〇年代、特にその中後半期には、こうした言説が数多く流通した。
それらは大人だけではなく、高校生や大学生にも及ぶ。たとえば、生徒数が激減する地方の高校に都会の中学生が入学し、地域活動をおこなう。その様子をメディアや有識者が地域活性化の成功事例として無邪気に取り上げる。ときに当事者は、そうした評価によって承認されたり、その期待を内面化したりしてしまう。
本誌編集部のメンバーは、あるときにはこうした言説から影響を受け、またあるときには言説の再生産にかかわってきた。しかし、同時にその全体に対する違和感を抱き続けてもきた。そのモヤモヤした感覚が出発点となり、本誌の編集は始まった。
(中略)
私たちが津和野町をいちど離れ、首都圏で暮らすようになって以来、ずいぶんと時間が経った。距離をとってみて初めて見えてきたものがある。
真冬にみなで鍋を囲み語りあった日々、だだっ広い居間で卓球やゲームに打ちこんだ熱狂、何気なく始まった映画鑑賞会でスクリーンを見つめた瞬間。それらは何度思いかえしても、たしかに青春だった。同時に、その陰でむくむくと育っていった違和感や葛藤もまた、何度考え直しても、よき思い出では済まされない論点を含んでいるように思われた。
できることなら本誌は、自分たちと同じように移住を経験し、地域と自分との狭間にあって違和感をもっている人はもちろん、進路選択や就職活動をはじめ、社会と自分との接点で悩みを抱えた人に届いてほしい。実存的な不安を癒せるとしたら、それは実直な内省によってこそ果たされるだろう。執筆と編集のさなかに味わった自己治癒の感覚は錯覚ではないと、私たちは信じている。
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