著者・川野芽生 自薦文
「身体と魂、自己と社会の齟齬に苦しむ歌人が、ロリィタに出会い、ロリィタを詠む。ロリィタとは、ロリィタをまとう精神とは何なのだろう。美を求める心と、眼差されることを拒む心。永遠の少女でありたい心と、年を重ねることを恐れたくない心。葛藤も矛盾も抱きしめて、年齢・性別を問わないすべての人に贈る短歌。」
編集者・Otona Alice Walk鈴木真理子 自薦文
雑誌『KERA』『ゴシック&ロリータバイブル』など長く原宿系ファッション雑誌や書籍編集を手掛けてきた私が、川野氏に出会ったのは2021年12月。snsメディア「Otona Alice Walk」でのファッションスナップ会を開催した時でした。川野氏は真っ白のドレスに大きな百合のコサージュを髪につけて現れました。その姿は一般的なロリータさんとは若干違っていて、19世紀英国ラファエル前派の絵画などに通じるようなロマンチックさを感じとることができました。ロリータ服を着るようになってから1年も経っていない、とのことでしたが……。
その後私は相棒から川野氏が歌人であることを知らされ、さっそく歌集を手に入れました。そして「川野氏にロリィタをテーマにした短歌を詠んでもらおう」と思いついたのです。ロリィタ×短歌。それは誰もまだやったことがない試みです。snsでだけでなく、小部数であっても紙の本として出版もしようと決意しました。
そして出来上がったのが、この本です。今振り返ってみますと、そもそも私が手掛けてきた原宿系の雑誌では、主にそのファッションを紹介してきたわけですが、そこでは写真撮影後に、その写真に添ったポエムを付けていました。そうすることで、読者がこの独自の世界に没入できるからです。今回はその順番が逆で、短歌に合わせて、写真撮影をしました。
短歌を解読する、写真のための設定を考える、撮影をする。そして短歌と写真を組む、と編集過程を経ていくうちに、このZINEは幾層かの「みづ」を湛えた、マーブル状のキャンディのような作りになっていきました(この歌集全体を通してたびたび出てくるワード「みづ」を、写真では川野氏の所蔵するビー玉をお借りし撮影して、写真やデザイン上で配置して表現することになりました)。
またページを開くと、表紙・裏表紙の裏付近共に、森の中に置いた鏡に自身を写すモデル達(と川野氏)の姿が現れます。これはこのZINEの中では「みづ鏡」を意味します。このZINEがロリィタである人が自分自身を見つめ直すための、鏡としての本になるだろうという示唆としたかったからです。
このZINEはロリィタをよく知らない皆さんが思ったのとは少々違う、またロリィタの皆さんが気がついていない、ロリィタの心の核心をついた歌が溢れ出すが如くの、甘美なる言葉の「みづ」入りキャンディを味わう本です。
ロリィタの方以外にも、文学を愛する方々には、今最も注目される歌人・小説家が豊かな感性と言葉で紡ぎ出すこの短歌そのものを、「ロリィタ」という聖なる領域に生きる人々の心を読み解く、鍵をみつける本という目的としても楽しんでいただけましたら幸いです。
短歌内には「オフィーリア」「シャイニング」「自分ひとりの部屋」「ルイス・キャロル」など文学や映画・美術好きには胸ときめくワードが飛び出します。
カバーでは、国内のみならず世界でいちばん有名なリアルロリィタモデルの青木美沙子氏とmisa氏が、キューブリック監督の映画「ロリータ」を思わせるハートサングラスを掛けて、チュッパチャップスを舐めながらナボコフの「ロリータ」を読む写真を選びました(実際はこんなサングラスをかけて本を読めるわけがないのですが)。
68ページしかない「薄くて高い本」「文字数の少ない本」ですけれど、こんな小さなエンタテイメント性も含め、様々な方面から、隠された魂を震わせる言葉・知識の断片・遊びとしての仕掛けをみつけてください!文学や文化を愛好する皆様にとってこの小部数発行の「Otona Alice Book#1『地上のアリス歌』」を所有すること自体が、誇りとなることを確信しています。
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「〈シャイニング〉の双子のやうにわたしたちどんな災禍もおそれず招く」
「叛逆のひとつと思(も)へりこのほしに亡国の姫として在ること」等
snsで掲載した「地上のアリス」ほか、書き下ろし連作「火事のやうに」掲載。