昔書いた作品に加筆修正を加え、改めて1冊の本にまとめたプチ短編集。
『招待状』『色職人のいる街』の二編を収録。
――これは現実?それとも夢?
何気ない日常から垣間見る、不思議な世界と物語。
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《冒頭試し読み》
少女はただひたすらに足を持ち上げ、引き摺りながらも、この険しい山道を上へ上へと登っていた。
なめていたのだ。まさかこんなに険しいとは。
靴の底を突き上げるゴツゴツとした岩も、真上から容赦なく頭部を打ちつける、傾きも沈みもしない太陽も、全てが予想外の障害物である。どの位登ったのか、どの辺りまで来ているのか、周囲が木々で覆い尽くされた単調な山道であるから、全く見当がつかない。登り始めた時の景色と何一つ変わりやしないのだ。唯一分かっている事は、道は前にも後ろにもただ一つしか存在しないという現実。こんな嘘みたいな一本道を見せ付けられては、やはりここは進むしかないと、己に言い聞かせるより他はないだろう。
そうやって自分をなんとか励まし、少女はここまで登ってきたのだ。貴方は「色職人の街」のお話をご存知かしら?
ああ、ご存知でない? そうでしょう、そうでしょうとも。
あそこはね、貴方、これはあまり大きな声じゃ言えないのだけれど、いわゆる伝説の街なのですよ。伝説と言いましても殆ど真実と言って過言ではない伝説でね、そうです、知る人ぞ知る、というやつですね。
幾つもの山を越え広い川を渡り、その先の山のずっとずっと奥の、まさに地の果てとも呼べる場所にある街……それがどうしたって? ウフフ、まあ、そう慌てないで。貴方、退屈していたのでしょう? ね、そうでしょう? 退屈は敵だ。どんな楽しみも退屈が相手じゃ敵わない。ね?私はそれを撃退する良い方法を知っていますよ。
――『色職人のいる街』より
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