世界は、今や転換期を迎えつつある。
いや、本当はこの国が、この街の体制が終わりゆくだけで、森の中や山の向こう、海の果てにはまだかつての世界、平和な場所が遺されているのかもしれない。
けれど、ここは違う。
ここは終わりだ、と私は思う。
はじめはちょっとしたことだった。すこし寒くなった大気に晒され、野菜の収穫量が減ってしまった。すこし空腹を覚えたので、ある人々は新しい食べ物を探した。やがて出来上がった新しい穀物の栽培をはじめた。
すると、からだの調子がおかしくなる者が現れた。業火の熱をからだの中から感じて、地獄の叫びを上げて死ぬ者。あるいは、見えない何かに寄生されて、その養分を吸い取られていくように、じわりじわりと衰弱の一途を辿る者。そんなこと、人間は知る由もなかった。
一方で、“恵みの穀物”と呼ばれた新しい穀物……ハイル麦の拡散は、人間社会にさらなる豊かさと、素晴らしい発展をもたらすものだと、誰もが信じていたのに。
はじまりは、かつて栄華を誇った大国の皇帝の突然死。そこから始まった、世界の秩序の崩壊。国の境目が日々変化する、侵略戦争。逆説的にもたらされた食糧難による飢餓と、みるみるうちに信じ難いような格差の広がった社会。
そして人間ではないナニカは、軋むからだの理由もわからない。自らをこのような運命に決定づけた罪のありかもしらない。彷徨い、迷い、歪んだ視界に希望を探すほかない。
そんな彼らの耳に流れ込む噂。
「どこかに楽園がある」
「そこに行けば、自らが何者なのか、知ることができる」
これは、最後の聖域、聖山エルンストで発見された、大量の資料からの抜粋。
あるいは、“そこ”を目指す者、探す者、後にする者の群像劇。
この後に生まれる新世界の住人たちが、この文書を発見し、訓戒として良き世の中の形成に役立ててくれることを、切に祈る。
アカセオ暦1607年(『エルンスト文書』前書きより)
ヨハネス・コンスタンス
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