こちらのアイテムは2016/11/23(水)開催・第二十三回文学フリマ東京にて入手できます。
くわしくは第二十三回文学フリマ東京公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

忘却の海

  • Eホール(1F) | C-35 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • ぼうきゃくのうみ
  • melon
  • 10ページ
  • 2016/11/23(水)発行
  • 以下冒頭部分です、お試し下さい。


     刑務所を出ると、私は電車を乗り継いで地元の埠頭へ向かった。そこは私の青春時代の思い出の地だった。試験で赤点をとった日や、好きだった女子に振られた日、第一志望の高校に落ちた日も、私はそこで涙を流し、次へ踏み出す準備をした。私は、そこを「忘却の海」と呼んでいた。  思い返せば、挫折や後悔の多い人生だったのかもしれないが、私は随分、忘却の海に助けられたものだった。そんな思い出の場所だからこそ、出所後すぐに、家族や友人と会ったり、うまい飯を食べに行くことよりも優先して、埠頭へ向かったのだ。  埠頭へ着くと、三月のほんのすこしだけ暖かい風が頬を撫でた。数年ぶりにきたその場所は、ほとんど変わっていなかった。快晴の下、幾度となく私の挫折を包みこんでくれた母なる海が、そこにはあった。私は、その景色を見ながら数年前の冬の日を思い出していた。たった一度だけ、忘却の海でさえも私を見放したあの日のことを。

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