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サヤコと鉄塔の幽霊

  • Eホール(1F) | D-13 (小説|短編・掌編・ショートショート)→配置図(eventmesh)
  • さやことてっとうのゆうれい
  • 珠宮フジ子
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 200円
  • 2015/05/04(月)発行
  • 幽霊に魅せられたある少女の、過去と現在のお話。
    (本作品は、世界観共有創作企画「西京Project(http://muu.in/skp/)」に参加しています。)
    76p・200円
    【収録内容】
    サヤコと鉄塔の幽霊

    【本文サンプル】
     あ、そうだ、死のう。
      放課後が始まることを知らせるチャイムが鳴るのを聞きながらそう思いついたので、私は学校の帰り道、ダムに寄ることにした。
      ダムの周りには今はもう使われていないたくさんの送電塔が建っていて、飛び降りて死ぬにはうってつけの場所だと思ったのだ。

     それにしても死ぬのって生きるのに比べたらとても面倒だ。いつも行かないような場所に行って、いつもはしないようなことをしなくっちゃいけない。
      小石を蹴りながら歩いている道を、私は今日、はじめて通るのだ。人気がなくって細い砂利道は、林の真ん中を突っ切って、破れた金網へと伸びていた。きっと、本当の道じゃないんだろう。私みたいにこっそり通る人のせいで、あるのだわ。
      金網の穴を、よいせ、よいせとくぐり抜ける。スカートの裾が引っかかって破れたけれども、気にしない。今から死ぬのに、そんなことを気にしたってどうするんだろう。
     汚れた膝を払ってから、私は目の前の、灰色のコンクリートの塊を見上げる。向こう側に夕日が沈んでいって、ダムはオレンジ色に輝いている。まぶしかった。お見送りには丁度良い眩しさだ。
      ダムの側には、同じくオレンジ色に輝く鉄塔がある。私は鉄塔のたもとへ駆け寄って、鞄を放り投げてから、靴と靴下を脱いで、揃えて置いた。
      冷たい鉄の棒をぎゅっと握って、はだしを鉄の棒の上へよいしと乗せる。もっと上の棒を掴んで、そこへ体重をかけながら、足も上へのぼらせる。そうやって繰り返して、鉄塔をのぼっていく。
      上へ、上へとのぼっていく。
      どれくらいの高さがあれば、ちゃんと死ねるのかなあ。なんて答えのないことを考えながらのぼっていると、ひゅうと風が吹いた。下から吹き上げるようだった風へ、スカートの布地がはためく。破れた裾が視界の端をよぎって、思わず足を止める。下からの風でスカートが膨らんでいる、こんなシーンが映画にもなかったかしら?
      風がおさまってから後ろを向くと、赤い空が広がっていた。ちょっと、下を向くと、広々と寒々しいダムが、遠くまで。自分が置いてきた鞄と靴を見るところまで、視線を下げられない。
     「君、死ぬつもり?」
     耳元で囁く声へ、思わず、小さな悲鳴があがる。手の力がゆるんだ。後ろへかたむく体を引き留めるよう、改めて手のひらへ力を込める。
     「なんだ、その様子なら大丈夫そうじゃないの」
      笑いながらさっきと同じの声が言った。心臓がとても早く脈を打っている。血の気が下がって、全身に冷や汗が吹き出していた。
      死ぬかと思った。
     死ぬつもりだったのに、おかしい。
     それを見透かしてこの声も笑っているんだろう。
      顔をあげると、艶やかな黒髪を風に散らして、セーラー服の少女が笑っている。血の気のない顔だった。宙に浮かんで、足がない。
     「自分の居るところで飛び降り自殺なんて、いやーだわ。良かったあ」
     「死ぬつもりだったけど、止めたの。あなたのせいで」 「あら、あら」
     それはごめんなさい? そう続けて首を傾げる。彼女は私より二つか、三つ年上に見えた。
     「君、おいくつ?」
    「十四歳」
     「そう。素敵ね、刹那的で」
      彼女の手が私へ伸びてきた。私の頬を、青白い手がなぜる。そう見えただけで、本当には、透けた指先は私の頬を過ぎっている。温かく触れる質量の代わりに、仄かな寒気がそこから広がった。 

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