目次
はにわさん 7
ぴろぴろぴー 22
へにゃらぽっちぽー長者 36
ずんどこ 51
ゆたんぽさん 54
対話篇 60
サンタさん 62
おしゃれ会議 75
バレンタインデー 88
へにゃらぽっちぽーの夢 94
ヨコハマさん 96
~以下試し読みです~
バレンタインデー
こんにちは、私は恋する乙女です。今日はデパートにやってきました。
なんだかにぎわっていますね。もうすぐバレンタインデーという行事があるようです。売り場に並んだ焦茶色のかたまりや白いかたまりはどれも丹精こめて作られたもので、そこかしこからいいにおいが漂ってきます。
「三色味噌セットを贈りませんかー」
「限定味噌は売り切れました!」
各地の味噌屋さんがじまんの味噌を売っています。焦茶色の八丁味噌も、白味噌も、おいしい味噌汁を作ることができるのです。
「これをください」
おじさんがどでかい樽に入った味噌を軽トラックに乗せて帰っていきました。大好きなひとにはたくさんの味噌を贈ります。
さて、私は恋する乙女です。好きなひとにりっぱな味噌を贈る行事を堪能しないといけません。まずは薪を割りましょう。ぱこーん、ぱこーん。そして火を起こします。おおきな釜で大豆をゆでるのです。ぐつぐつ、ぐつぐつ。いいにおいです。
「へにゃらぽっちぽー!」
まのぬけた声がします。だれですか。
「ぽっちぽ、ぽっちぽ、へにゃらぽっちぽー!」
このひとはへにゃらぽっちぽーだそうです。こんにちは、私は恋する乙女です。
「へにゃら、へにゃら……ぽぽぽ?」
いいにおいがしたのでやってきたのですね。これは大豆です。ゆでているのです。
「ぽ? ぽぽ……」
味噌を作るためのたいせつな材料なのです。でも、どうしてもというなら少し食べてもよいですよ。しょうがないですね。
「ぽぽぽー! へにゃらぽっちぽー!」
お礼を言ってほくほく食べはじめました。よだれをたらしながらにこにことしています。ゆでたての大豆は甘くておいしいものです。
「ぽっち、ぽっち、ぽっちぽ」
満足したようです。
「へにゃらぽっちぽー!」
あいさつをして去っていこうとします。そうは問屋がおろしません。
「ぽ?」
いえ、私は問屋さんではありません。
「ぽぽ?」
食べるだけ食べて帰るなんて、そんな虫のいい話はないのです。
「ぽぽぽ?」
いえいえ、私は虫さんでもありません。大豆を食べたのですから、味噌作りを手伝ってもらいます。
「ぽっちぽ! ぽっちぽ!」
なんだかやる気ですね。
大豆をつぶして、桶に入れます。
「ぽーっちぽー、ぽーっちぽー」
まのぬけた声で歌いながら混ぜているひとがいます。
「へにゃらぽっちぽー!」完成です。
ちがいます。大豆を混ぜても、それは大豆です。味噌ではありません。塩を入れましょう。どばどば。
「ぽーっちぽー、ぽーっちぽー」
大きなへらを使って混ぜます。
「へにゃらぽっちぽー!」完成です。
ちがいます。これは塩辛い大豆です。味噌ではありません。次に米麹を入れるのです。どばどばどば。さきほどのゆで汁も入れて、混ぜていきます。
「ぽっちぽ……、ぽっちぽ……」
かたまりになってくる味噌を混ぜていると疲れてきます。うんとこしょ、どっこいしょ。すばらしい味噌を贈るためにがんばるのです。えっこらせ、よっこらせ。
ふう。ひと段落です。
「ぽっち、ぽっちぽ……ぽっちぽ!」
いえ、これで味噌汁は作れません。
「ぽぽぽ?」
寝かせないといけないのです。発酵させるのです。
「ぽぽぽぽ?」
そうですね、一年くらいでしょうか。
「ぽ! ぽ! ぽぽ! ぽぽぽぽー!」
いやいや、そんなにびっくりしなくても。りっぱな味噌になるには時間がかかるのです。
「へにゃらぽっちぽー!」
うきうきと帰っていきました。おいしいゆでたての大豆と、味噌作りを楽しんでいただけたようです。
私は恋する乙女です。ぼんやりと一年をすごします。
どうぞ、さしあげます。おくちにあうかわかりませんが、手作りの味噌です。キュウリとキャベツもいかがですか。あと、あなたのことが好きです。
「ありがとうございます」
「わたしもあなたのことが好きですし、キュウリやキャベツに味噌をつけて食べるとおいしいです」
「おかえしをしなくてはいけません。しばしお待ちを」
好きなひとはキュウリとキャベツと私が好きだということがわかりました。
「いまから作りはじめて、一年後に醤油ができます」
ホワイトデーという行事があるようです。バレンタインデーに味噌をもらったら、デパートで選んだ醤油や手作りの醤油を贈ります。かまぼこやまぐろに醤油をつけて食べるとおいしいです。