「生きる理由は、とうにない。ただ縁に生かされた。だから、俺を殺すその瞬間まで、どうかお前の姿を見せていてくれ。俺はきっと、この瞬間のために生きてきたのだから」
己の言葉に充足を得て、けれど、次にかけられた言葉は
「たわけ。死にたければ勝手に死ね。我に引導を渡す役割を押し付けるでないわ」
目の前には、女が一人。金色と銀色の瞳をした、灰色の髪を流した、美しい女。
「……な、お前。人化できるのか? というか、女だったのか」
「雌、と言わなかっただけ、まあ分別があるようじゃな」
女はコロコロと笑った。そして、口を結び、背を伸ばす。
「たった今、縁が結ばれた。最早、名を持つことなどないと思っておったが、貴様が我に結わえたのだ。我が名は南空。貴様の生涯を見届ける者ぞ。さあ、我が伴侶よ、名を名乗れ」
「……お前、何を。今の時代に、人と竜が縁なんぞ結べるわけが」
「何を言うておる。口説いてきたのは貴様じゃろうに」
「いや、口説いたって」
「我に面と向かって美しいなぞと真顔で宣うドアホウはついぞおらんかったからな」
「いや、確かに言ったけれど」
「貴様、これからは我のために生きろ。生きる理由もないが、死ぬ理由もなかろう? なら、お前は、生きていい」
「俺に、そんな資格が……」
「しゃきっとせんか。我の花婿として、生き残る全ての龍にお披露目をせねばならんのだぞ」
「何物騒なことを言い出してるんだお前」
「元気が出てきおったな。なら、ほれ」
まるで、童女のような悪戯顔で
「我が伴侶よ名を名乗れ。我が惚れてしまうくらい、恰好よくだぞ」
人と竜が再び共に歩く物語の、はじまり。