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龍嫁行路 お試し読み1/2

  • に-32 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • りゅうかこうろ おためしよみ 1ぶんの2
  • 伊藤大二郎
  •  龍を口説いた話

     

     人と竜が決別の時を迎えた戦争の終結。

     

     その次は、竜狩りの時代。

     

     駆け出しだった頃に世話になった人に頼まれて、邪竜討伐隊のメンバーに加わることになった。

     乗り気ではなかったが、故郷を失って冒険者になるしかなかった俺には、人の縁しか生きる理由がないのだ。

     その人が、厄災を振りまく竜を止めたいというのなら、死んでもいいと思った。

     それだけの理由だった。

     

     竜は強く、討伐隊は返り討ちにあい、敗走した。

     

     俺は世話になった人を逃がすために殿を引き受け、一人で竜を足止めした。

     この天地に、今、俺と邪竜が向かい合う。

     それ以外の全てが失われた静寂の中で、声が響いた。

    『強き剣士よ、残す言葉はあるか』

     それが竜のしゃがれ声だと気づいた時、なんとも優しい声色だと思った。

     目が合う。金色の右目と、銀色の左目。灰色がかった鱗の、大いなる存在。なんと、雄大か。

     ふと、笑ってしまった。

    『なぜ、笑う』

    「……南の空だ」

    『どのような意味だ』

    「子供の頃は、夜明けと共に水を汲みに丘を二つ越えにゃならんかった。冬はとてもきつかったが、丘を越える途中に南の空を眺めると、灰色がかった森が広がって、左に朝陽が、右に消えかけた白い月が見えた。夜が朝に変わっていく瞬間、それが、ただ綺麗で。それだけを楽しみにしていた。今でも覚えている。お前さんの瞳と肌が、あの頃の美しい南の空とおんなじで、さ」

    『故郷は、どこだ』

    「もうない。竜と人の戦争で、燃えて消えちまった」

    『ならばこれは、敵討、か?』

    「そんなもんじゃねえ。そんなもんじゃねえんだ。美しい南の空よ、俺の思い出をそんな言葉で汚さないでくれ」

    『美しい言葉を弄ぶ者よ、何を望む。我の死か』

    「何も望まない。お前が邪竜との話だったが、やはり違った。お前はただこの谷に住んでいるだけのただの、美しい竜だった。人がお前の土地を奪うために流した噂だった。それが確かめられただけでいい。だから、非礼はどうか俺の命で贖わせてほしい」

    『なぜに死を望む』


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