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鬼娘の百物語(四国の妖怪編)

  • き-27 (小説|ホラー・怪奇)
  • おにむすめのひゃくものがたり しこくのようかいへん
  • へちまとろん
  • 書籍|A5
  • 64ページ
  • 2025/1/19(日)発行
  • 第1回文学フリマ香川に出したかった1冊。抽選に通らなかった無念がこもった64ページです。
    【目次】牛鬼・七人童子・子泣き爺・赤シャグマ・隠神刑部・シバテン・夜行さん・妖怪解説
    【隠神刑部】(本文より1部抜粋)
    会社から追い出された。私が無能だからだ。 「コピーも出来ないのか?」  最後に言われた上司の言葉だ。怒鳴るでも、嫌みでもなく、ただ唖然とつぶやいていた。 電話対応、事務所の清掃、来客対応、すべての雑務をためさせてもらった。良い会社だったと思う。それだけにクビだと言われたときに抵抗した。 「パソコンとコピー機と窓ガラスの弁償の代わりに、クビなんだよ。わかるね?」  社長は泣きすがる私を哀れむ目で見下ろしていた。  これまでの会社では怒鳴られ、罵倒され、暴力もふるわれた。上手くいかないのはブラック企業のせいだと思っていた。良い会社、良い同僚に出会えれば私も能力を発揮できるのだと信じていた。  しかしそれは都合の良い幻想だ。  職を失ったら公園にしか行くところがない。よく聞く話だが、最近は公園も厳しいようだ。そもそも公園は子どもが遊んだり周辺の住民が憩う場所だ。無職が黄昏れる場所では無い。  私がブランコに尻をねじ込んで座っていると、おまわりさんがやって来た。 「お父さん、何してるの? 子どもが怖がってるから、どけてあげてくれない?」  私より十は若い警官が丁寧に優しく、私を排除しにかかる。  私はまともに返事も出来ず、汗を拭きながら公園を後にした。公園の周りには数組の親子がいたようだ。私の言動を警戒しているのが肌に刺さるように判った。  家に帰っても、両親に苦い顔をされるだけだ。二人がどうやって私を追い出そうかと話し合っているのを知っている。私だって早く実家を出たかった。両親に楽をさせてやりたい。そんな普通のことが、私には出来ないのだ。  行く場所が無い。だから私は黙々と歩き続けた。日が沈み、日が昇り始める頃には足は棒のようだった。でも、どこかで休憩しようものなら、誰かが「お前の場所はここじゃ無い」と責めてくる様な気がして、止まれない。  朝日が周りを照らしだした頃、限界がきた私は知らない山道の途中で倒れてしまった。  アスファルトが剥がれて割れ目から雑草が生えている。道として機能していない。そんな場所だ。誰も来ないだろう。このまま誰にも知られることなく死ぬかもしれない。  そのとき、茂みが大きく揺れ、ひょっこりと狸が顔を出した。しばらく私たちは見つめ合っていた。私は驚いたが、声を出すことも動くことも出来なかった。狸はまじまじと私を見つめていた。 「何してんの、こんなとこで」  高い声がした。人が来たのだろうか。だが狸が逃げる様子が無い。それどころか口がパクパクと動いている。 「帰ってから寝たら良いやん。こんな道ばたで寝んでも」  カラカラと笑い声がする。目の前の狸が目を細めて牙を見せた。狸が笑っているのか? これは幻覚か?  私は何度か瞬きをして、狸を見返す。 「なんなん?」 「あ、動けなくて」  少し苛立った声に私は反射的に言い訳をした。それを聞いて 「ほーん。動かしたろか?」  狸は私の上に葉っぱを置いた。すると少しだけ、体が浮き上がった。狸は 「よいしょ、よいしょ」  と浮かぶ私を押してくれた。しかしいくらも進まないうちに私はまた地面に戻される。 「あかん。一回戻ってくれ。人の大きさでは動かせん」 「え、戻る?」 「そういや、何で人のままなん? 戻った方が楽やろ?」  この狸は、私も狸だと勘違いしているようだ。だから親切にも声を掛けてくれ、運んでくれているのだ。私が人間だとばれたらきっとショックを受けるだろう。逆上して襲いかかってくるかもしれない。私はこの場を切り抜ける方法を疲れた頭を回転させて考えた。 「・・・・・・戻れなくなった」  果たしてこの言い訳は通じるのか? 恐る恐る狸の顔を見上げてみたらあんぐりと口を開いて固まっていた。 「お前、アホちゃう? こんなアホ見たことないわ」  狸にまで無能扱いされてしまった。  狸はくるりと振り返り茂みに入っていった。今のうちに逃げようと体をよじったが、関節や筋肉がきしみ、座り込むことしか出来なかった。そうしているうちに、狸が戻ってきた。茂みから顔をひょっこり出して 「ちょっと元気になったか?」  と出てきた。その後から続々と五匹ほど続き、ぐるっと私を囲んだ。 「ほな行くで~」  狸たちは私を浮かべて、一緒に 「よいしょ、よいしょ」  と、かけ声をあげて座ったまま浮く私を押し始めた。  背の高い草に体のあちこちを擦られてチクチクと痛い。我慢していると徐々に草が高く私の頭に届くほどになり、また、徐々に低くなり、あちこち巣のような場所が見えてきた。穴から同じような狸が顔を出して私を物珍しそうに見上げている。  キャラクターとしての狸はかわいらしいが、野生の狸は不気味だ。しかもしゃべっている。私はできるだけ体を縮こめて堪えた。  私たちはひときわ大きな木の下にたどり着いた。集落の一番端なのだろう。木の洞に向かい狸たちは 「せんせー」  と声を掛ける。しばらくして洞から強烈な獣臭が吐き出されるように流れてきた。私は地面に下ろされ、他の狸たちは行儀良く私の周りに座る。私は緊張か、臭いせいか、息が出来ず、体が震えていた。 「なんだ」  腹に響く低い声とともに、洞から大きな目が二つ覗いた。黒い狸だ。洞いっぱいに狸の顔がある。その顔が無理矢理穴を抜け、針のように太い毛を携え、この大木でも入りきるのか不思議なくらい大きな狸が、這い出てきた。
    【続きは本誌でお楽しみください】

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