リーファニア王国の王宮ハウスメイドであるカトリーナは、推しのぬいぐるみを作っていた。
これで二体目である。
(ジョフリー・アイアンド様――す・て・き)
まだ顔も髪の毛も付いていない、ただの肌色の布だが、カトリーナには完成した姿が見えていた。
(屈強でかっこよくてたくましいジョフリー様ぬいには、やっぱり綿をたくさん入れなくちゃね)
ジョフリーとは、黒竜騎士団の副団長である。
二メートル近くある身長に、屈強な身体。
王都最強と呼ばれる騎士団の中でも目立つ偉丈夫で、剣聖・イズレイル・ギデインに次ぐ地位の持ち主である。
メイドたちの人気はイズレイルに集中していたが、カトリーナは断然ジョフリー推しだった。
(やっぱり殿方は素手でクマを倒せそうなかたが、一番素敵よね。ジョフリー様って畑もバリバリ耕してくれそうな、頼りがいのあるところがいいな。正装姿も立ちくらみしそうなほど素敵だけど、農夫の姿をして畑を耕しているところも、一度でいいから見てみたい……)
カトリーナの男性趣味を聞いた他のメイドたちは「信じられない」と口々に言ったものだったが、カトリーナは気にしなかった。
メイド仲間と一緒に、きゃあきゃあ言いながら推すよりも、一人で静かに推すほうが性に合っているのだ。
今日も空き時間に、手芸という名の推し活をしていた。
ジョフリー本人と話す勇気もなければ、そうする気もないカトリーナにとって、至福のときである。
そのとき、廊下から足音が聞こえたかと思うと、控えの間のドアが勢いよく開いた。
「た、大変大変大変っ」
メイド仲間であるメリッサが、血相を変えて飛び込んできた。
つい先ほどメリッサは、昨日玉座の間で倒れた王弟ギルロードの様子を見に行った。
そして慌ててここへ来たということは――。
「まさか……ギルロード殿下に何かあったの!?」
「あったわ」
恐ろしいことにメリッサは肯定した。
そして息を整えたあと、続ける。
「ギルロード殿下が、こっちを向いてね……。しかも『お疲れ様です』って、私に言ったのよ!!」
「えええええええええ!?」
メイドの控えの間が、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。