「さよなら」を積み重ねて、私達は今日も生きていく。「別れ」をテーマにした短編集。
「さよなら」は思い出となり、時に切なく面映ゆく胸を締め付ける。
そんな沢山の「さよなら」の物語。
◆『たえて桜のなかりせば』
《青春》とのさよなら。
「世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」
この歌を教えてくれたのは国語の先生だった。
桜が咲くにはまだ早い季節に思い出す、あの三十一音。
これは青春と私のお別れ。
◆『春待つつぼみ』(合同誌再録)
《初恋》とのさよなら。
中学卒業間近のある日、世界で一番かっこいい人が私の家にやって来た。
大人の真似事をする私の頭を優しく撫でてくれる、私の叔父さん。
そんな彼の家には、背の高い痩せた男がいる。
これは初恋と私のお別れ。
◆『煙る石膏』
《憧憬》とのさよなら。
彼の席は、喫茶店の一番奥の座席。どこか浮世離れした喪服姿の常連客。
決まって同じ注文をして、文庫本に視線を落とす彼を観察するのが、私の暇つぶしだった。
これは名前も知らないあの人と私のお別れ。
◆『モンタージュの横顔』
《偶然》とのさよなら。
「連絡先はご自身で移してくださいね」
スマートフォンの機種変に伴い、移そうとした連絡先には「彼」の名前があった。
大学時代に僕が出会った「彼」。
これは同級生と僕のお別れ。
◆『皿の上の愛』(合同誌再録)
《日常》とのさよなら。
「今日のごはんは?」
この一言から始まる決まったやりとり。気合いを入れて作った手料理を、大好きな彼はいつも美味しいと笑って食べてくれた。
これは愛すべき二人の食卓と「あき」のお別れ。
◆「雫ひとひら』
《少女》とのさよなら。
大好きな叔父さんの家に行って、ゲームをして、二人でホットケーキを作って、それから。
私に与えられた特別な一日。今日だけはきっと許される。
これは「私」と私のお別れ。
◆『花に嵐』
《さよなら》のその先に。
花と私とさよならと。
あなたにとって、「さよなら」とは何ですか?
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