眠りから覚めたミンニは、ぼんやりと天井を見つめる。室内は暗く、燭台皿の灯心が時折、ジジッと音を立てて燃えていた。 ひどい倦怠感と浮遊感。とても、起きあがる気にはなれない。まるで、あの冬の日の再来のようだった。
二つ前の季節に、ミンニは恋敵と対峙した。自分よりもずっと小さく幼い娘だった。女として、負ける要素などどこにもなかったはずだ。
けれど、負けた。完膚なきまでに、圧倒された。欲しがるだけで、自分からはなにも動こうとしなかった自分の怠惰を、眼前に突きつけられてしまった。しかも打ちのめされると同時に、ほんのわずかに理解してしまったのだ。彼女の想い人が、あの娘を選んだ理由が。
誰もそうとは言わないけれど、レンエンで療養が出来るように手を回してくれたのも、あの娘だ。恨み辛みよりも、ただただ惨めだった。
器が。見ている世界の大きさが、違いすぎた。
本当に惨めだった。
(「草海 空海」本文より)
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転地療養にと訪れた草原の町。恋に破れ心を病んだミンニは、多くの人と文化が入り混じるその地で小さな友ヤークムと、交流を深めていく。
架空の多民族国家タンムーヴァの片隅で、立ち直り、己を律しようとあがく女性の成長譚。
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下記にも、文章サンプルを載せております。 良ければご覧ください。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8392123