――彼女が不在を望んだとしても、私は彼女を捜すのをやめられない。
密かに憧れを抱いていた人が、ある日突然失踪してしまう。
彼女の不在をきっかけに失われていく彼女の印象や記憶。それは彼女自身が存在しないのとやがて同じことになっていく。耐えられない「私」は彼女の存在を証明するため居場所を探し始める。
〈不明のフラクタル・赤〉
――直径一寸ほどの小さな範囲に描かれた緻密なヒノキ模様は日に日に立体的に膨らんでゆき、驚くべきことにそのうち皮膚の色を失い、透き通ってきた。
飼っていたメダカが突然死した。死んだメダカの腹には小さな透明の結晶が生えていた。原因がわからないまま、今度は自分の腕に結晶が生えてくる。
美しく不気味な原因不明の奇病によって、徐々に不思議に巻き込まれてゆく。
〈不明のフラクタル・青〉
同じタイトルで書かれた全く違う二つの物語。
完全新作の短編二篇を収録。