こちらのアイテムは2019/9/8(日)開催・第七回文学フリマ大阪にて入手できます。
くわしくは第七回文学フリマ大阪公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

カレンダーをめくる日

  • G-54 (小説|短編・掌編・ショートショート)→配置図(eventmesh)
  • かれんだーをめくるひ
  • 神谷信二
  • 書籍|B6
  • 12ページ
  • 0円
  • 2019/09/08(日)発行



  • カレンダーをめくる日



     少しだけ開いた窓の隙間から聴こえてくるのは、競うように泣く蝉の声と公園で虫取りをする子供の声。

     子供達は時に笑い、時に泣き、時には怒った声を響かせている。

     そんな夏の音が聴こえているのに、家のリビングに掛けられたカレンダーは五月のままだ。

     カレンダーなんて薄っぺらい只の紙。めくろうと思えばめくれる。それなのに、めくること無く時間だけが進んでしまった。

     小さな服が散らかったリビングと玩具の散らばった和室。おままごとセットの包丁やプラスチックの野菜が点々と転がり、私や妻の顔が描かれた画用紙も畳を隠すように並べてある。

     和室の奥にあるキッズテントに目を向けてみると、クマやウサギのぬいぐるみが三ヵ月前と同じ位置で鎮座していた。

     重い腰を上げてみる。そろそろ妻が薬を呑む時間だ。

     階段を上がって寝室の扉をノックするが、中から返事は返ってこない。

    「開けるよ」

     小さくそう呟きながらゆっくり扉を押すと、ベッドに座って宙を見つめる妻の背中があった。

    「うどんとお蕎麦、どっちがいいかな? 昨日はお粥だったから流石に毎日は飽きると思って、昨日仕事の帰りに……」

    「要らない」

     僕が全て喋り終える前にそう言った妻は、相変わらず宙を見ている。

    「そう。でも……薬呑まなきゃいけないから、少しだけでも何か」

    「要らないって言ってるでしょ」

     妻はそう言って私の足下に枕を投げつけてきた。私が屈んで枕を拾い上げようとした時、妻は念仏のように同じ言葉を繰り返し始めた。大粒の涙を流し、近所に聴こえる程の声量で。

    「ごめんね佑衣、ごめんね佑衣、ごめんね佑衣、ごめんね佑衣、ごめんね佑衣、ごめんね佑衣」

     私は妻を後ろから抱きしめ、「大丈夫」といつものように声を掛けた。それでも妻は、目覚まし時計のように「ごめんね佑衣」と言い続けている。

     悲しみは時間が解決してくれるという言葉が嘘だと言うことを、私は娘を亡くして初めて知った----。

    続きは文学フリマ大阪 会場にてご覧ください。
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