【潔癖症な王太子×親の愛を知らない美少年】
伯爵子息のルーファスは、双子の妹の代わりに王弟のクリストファーと女装した姿で出会う。
男とバレた時に放り出されるが、その後クリストファーは風邪を引いたルーファスを責任感からか熱心に看病し、彼の無垢な性質やあどけない姿に夢中になる。
一緒に風呂に入り、男同士の常識などを教え込まれるルーファス。次第にクリストファーに惹かれてゆく自分に気付くが、王太子と男は結婚ができない。さらに、周囲に二人の関係が明らかになってしまい…!?
「風邪が治るまで、ここにいろ。義姉上も心配している」
客間に戻して欲しいといっても、許可はおりなかった。頭も痛いし、熱のせいかぼんやりして、それ以上起きていることもできなかった。
次に目が覚めたのは、お昼を過ぎた頃だった。やはり王太子様が粥を持ってきてくれた。
ご飯の時間できっちり目覚める俺って……。
「もう大丈夫です」
「お前の大丈夫は聞き飽きたし、全然大丈夫じゃないことも理解している」
王太子様は、俺の言葉を全く聞き入れてくれそうになかった。
「そんなことはっモグ……」
喋ると口に食べ物が入ってきて、話も続けられなかった。
「ミルクがついている」
口の横にミルクがついたのだろうか。恥ずかしくて慌ててこすると、「そっちじゃない」と言われる。
カァ――と頬が熱くなったのは、子供のような自分が恥ずかしかったからだ。
突然、王太子様が近寄って、驚いた――。
唇の右側をペロッと舐められたのだ。親猫が子猫を舐めるような、いやらしさのない行動だった。
「えっ、あ、あの……」
「ん。なんだ? ああ、薬か」
返答の代わりに、飲み薬を渡された。変な事をしたのをごまかしている様子でもないので、もしかして王宮では普通の事なのだろうか。照れてしまうのを隠すように、慌てて薬に口をつけた。
「マズ……」
顔をしかめて飲み干すと、王太子様が「口直しだ」と、スプーンを運んできた。イチゴのムースだった。昨日、好きだといったのを覚えていてくれたのだ。
王太子様は、俺が食べるのを笑って見ている。何かおかしなことでも、したのだろうかと首を傾げた。
「いや、美味そうに食べるなと思って――」
「美味しいですよ。王太子様も食べていいですよ。風邪がうつるといけないから、綺麗なスプーンで食べてください」
まるで、自分が用意したように勧めた。
王太子様は、「そうか」と言いつつも俺にムースを運ぶから、食べる気がないのかとガッカリした。
こんなに、美味しいのに……。
口を開けると、スプーンから零れそうなくらい、沢山のムースが入れられた。
甘い中に少し酸味があって美味しい。熱のある身体に冷たいデザートは嬉しかった。咀嚼していると、王太子様の手がクッションに預けている俺の首の後ろを掴んで、反対の指が顎を持ち上げた。
どうしたのかと訊ねる前に、王太子様の唇が、俺の口を覆った。
「んっ……」
驚いて、止めて欲しいと声をあげようにも、首筋の手は首を振ったくらいじゃ外れなかった。顎を掴まれると、俺の意思とは関係なく、口が開いた。
「やっ……あ……」
そこに王太子様の舌が、遠慮なく入り込んできて、閉じる事もできない。そんなことをしたら、舌を噛み切ってしまう。
「んんっ!」
王太子様の舌が、俺の口の中のムースを味わっている。ほんの少しのムースさえ逃さないような執拗な動きに、ゾワッと背中が震えた。鼻から息が漏れて、酸素が逃げていく。震えた舌を彼に絡め取られると、その熱さで眩暈がした――。
「やぁ……っ!」
苦しくて力が抜けていた腕を持ち上げ、必死に王太子様の胸を叩くと、ちゅっと下唇に吸い付いてから、顔が離れていった。
酸素を求めて、肩が上下するくらいに息をした。熱は絶対上がっていると思う。震える指に、力が入らなかった。
王太子様は、俺の頬から唇をそっと指で撫でた。
「そうだな、美味しい」
「そんな食べ方をしなくても……」
俺が涙目で非難をしても、特に何も感じないようだった。
「これが一番味わえるとおもったんだが――?」
何を言っても、無駄だとわかる顔をしている。
嫌がらせにしても性質(たち)が悪い――。そんなに俺が女の格好をして王太子様(じぶん)のパートナーになったことが許せなかったのだろうか。
まさか、笑いものにでもなったのだろうか。
「早く元気になれ」
俺を虐めようとしている声には、聞こえないのに。
頭を撫でられると、途端に眠気が襲ってきた。
もし、俺がロッティの振りをしたことで、彼が怒っているのなら、ちゃんと謝ろう――。
けれど、俺が「ロッティ……」と呼ぶ声に応えることは出来なかった。飲んだ薬のせいか一瞬で、眠りに落ちたからだ。
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