こちらのアイテムは2017/9/18(月)開催・第五回文学フリマ大阪にて入手できます。
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幻想の青と白

  • D-02 (小説|ファンタジー・幻想文学)→配置図(eventmesh)
  • げんそうのあおとしろ
  • 風城国子智
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 60ページ
  • 200円
  • 2017/09/18(月)発行
  • 明るい未来ディストピア風連作短編集。
    『大災害』によって大きく変わってしまった町や都市を、人工知能と共に管理運営する職務を負う『管理者』、甘いものと本が好きで都会が苦手な尤理が目にする、『過去』と『現在』、二重写しの物語。

    目次

    試し読み 喧噪の現像

    『今、どこ?』
     快適な微睡みの隙間に侵入したメッセージに、一瞬、思考が混乱する。
    『暗闇』
    『ふざけないで』
     車窓の景色をそのまま、左耳に引っかかっているイヤカフ型の情報処理機器経由で送り返すと、タイムラグ無しで怒りが返ってきた。
      やれやれ。小さく首を振り、溜息を、『システム』とその先に居るであろう妹に悟られないように飲み下す。トンネルの中なのだから、今自分がどこにいるかなんて、判別できない。いつものことながら、妹は、理音は、せっかち過ぎる。揺れを感じない都市間高速鉄道の適度に固い座席に身を預けると、尤理(ゆうり)は思考一つで『システム』を呼び出し、現在尤理が居る緯度と経度を算出して理音へ送るよう依頼した。
    『あと三十分で着くわね』
     すぐに、妹、理音からの返信が脳裏に響く。
     『逃げないでね』
      逃げるつもりなら、この鉄道には乗っていない。反論を妹に送らないよう自身を制御しながら、身体の強張りを溶かすために、尤理はすかすかの空間で大きく伸びをした。
      外の景色は、トンネルの暗闇から草が疎らに生える放棄された荒れ地へと変わっている。その荒れ地に重なるように、喧噪に満ちた町と明るい色の家々が見えた気がして、尤理は殊更大きく首を横に振った。
      一年に一、二度、母は、『大災害』前からこの国の首都であった都会に行くための高速鉄道チケットが添付されたメッセージを送ってくる。そのチケットがもったいないから、尤理は、尤理と同じくこの世界を人工知能と二人三脚で管理する『管理者』の職に就いている母と妹が暮らす都会へと赴く。二日か三日だけ、母が仕事をしている場所にある『管理者』用宿舎の一角で過ごし、すぐに田舎へ帰るのが普通だが、その二、三日が、尤理にとっては苦痛でしかなかった。その、理由は。頭上の棚に押し上げた鞄を下ろすことで、尤理は、ゆっくりと車窓を流れる放棄地に重なる、無秩序な色と形から目を背けた。
     世界を襲い、世界の秩序を変えた『大災害』の後、寂れた地方都市も、無秩序に広がり過ぎた都会も例外無く、都市を結ぶ鉄道駅の周りに集められた小さな町とその周りに広がる耕作地とに再編された。町にも耕作地にもできなかった土地は放棄地、あるいは『禁域』として、『システム』の管理下に置かれている、はずなのだが、尤理には、見えてしまうのだ。『大災害』前の、建物を建てるべきではない場所にまで無秩序に広がった、あるいは狭い場所にびっしりと立ち並ぶ建物と、喧噪に満ちた光景が。
     母に会ったら、何を言われるだろうか? 思考を無理矢理、二重写しの車窓から外す。前と同じように、結婚して子供を持てと言われるのだろう。『管理者』として、半年にも満たぬ間隔で田舎の町を巡る合間に、タイミングが合えば病院で卵子を提供しているのだから、この世界の均衡を保つために子孫を残さなければならないという『義務』は果たしているはずだ。それとも、田舎ではなく都会の『管理者』になり、旅の生活から足を洗うよう、言われるのだろうか? いつも何かしらのトラブルが生じ、気が張ってしまう都会は、尤理の性には合わない、ただそれだけのことなのに。再び、溜息をつきながら、尤理は車窓へと視線を戻した。
     『システム』がしっかりと管理する秩序ある『街』に、無秩序に広がるコンクリートや木造の家並みが重なる。舌打ちで思考をごまかすと、尤理は棚から下ろして隣の席に置いておいた鞄に手を掛けた。

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