――殺さなければならない。
「お前には、敦貴を殺してもらいたい」
吸血鬼についての研究を行っている施設で、咲衣(さえ)は吸血鬼でもある研究員、敦貴(あつき)の護衛任務を命じられる。
だが任務の裏には、敦貴の暗殺という目的があって……。殺伐とした現代ファンタジーの短編です。
*冒頭抜粋*
薄暗くせまい路地の向こうがわから、足音がいくつも聞こえてくる。
咲衣は建ち並ぶ建物の壁にからだを貼りつけるように立ちながら、耳をそばだてていた。居酒屋の裏側なのだろう、咲衣のよこにはビールの空き瓶がいれられたケースがならんでいる。この場所はネオンが輝くおもてとはちがい、夜の闇に路地ごと沈んでしまいそうな暗さだった。
目の前には電気が消えた部屋の窓があり、咲衣の顔が鏡のように反射してうつっていた。ふわりと巻かれた肩までの栗色の髪に、色素の薄い瞳、そして厚い唇の女が無表情で立っている。
「どこにいった」
「こっちか」
すこしはなれたところから、男たちがささやきあう声が聞こえてくる。もうすこしだ。咲衣は緊張をときほぐすかのように、息を吐いた。冬の夜は芯から冷えているせいで、吐息は白くかすんで、闇に消える。
足音が咲衣のすぐそばまでせまってきていた。咲衣はすっと息を吸うと、足音が聞こえてくる道へと踊り出る。
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