猫屋奇譚シリーズより、晴を語り手とした奇譚4話収録
紫陽花・百鬼夜行・鬼にあうこと・干支鈴
鬼の晴を語り手に、薬師と村に伝わる風習のために薬師を招く人間である誠二との奇譚。
1冊を通して初夏から師走の大晦日までの季節を意識した連作となっています。
本文より抜粋
俺は村の事情と風習の意味を知り、自分自身も決行しなければならないと悟る。
昔は村のどの家でも風習に従った。だが今も続いているのは僅かに数軒を残すのみだ。
俺だって本当に風習を信じているわけではない。
この村は長子に長女は育たないと云われてきた。 男女に関わらず、初めての子は大人にはなれない。
何が原因なのかは分からない。だが実際に風習を馬鹿にした家は大切な子を失った。
人によって土地が悪いだの村の者全員が呪われているとまで云っているのもいた。
そして厄から逃れるために、村の者達は家に子供が生まれるその前に薬師と呼ばれている男と連絡を取った。
二人の鬼面を付けた男が立っていた。
俺から見て右側の男は横笛を手にして黒く染められた着物を緩く着ており、もう片方は背中に風呂敷で包んだ箱を背負っている。
「本日はお招きありがとうございます」
俺の目に映った光景は一生涯忘れないだろう。
横たわる雲の合間から糸のように細い光が差し込んでくる。
あれは先頭を行く薬師の持つ提灯の火だ。その後ろには懐かしささえ感じる魑魅魍魎らが蠢くように列をなしている。
満月が奴らを照らした。半数が塵となり消えていく。
「久しぶりのご対面だ」
僕は妖刀を満月の光を浴びせるように振り上げた。
noteに「紫陽花」を試し読みとしてアップしています。 ぜひお立ち寄りください。
https://note.com/sandorie/n/n7a2df2ee759f