香港で暮らすオーストラリア人エマは、裕福な中国人ジョン・チェンの娘シモーネのベビーシッターとして、チェン家に住み込む。シモーネには誘拐される危険があり、ボディーガードのレオが常に付き添っている。たび重なる襲撃。チェン家をめぐる不可解な出来事。そしてついにジョンの正体が明かされ、エマの運命も思いがけない方向へと動いていく…。
作者カイリー・チャンはエマと同じオーストラリア出身。中国人と結婚し、香港で暮らした経験をもとに本作品を執筆。アクションシーンにみられる中国武術の描写には、自らも武術を学んだ経験のある作者の実体験が生かされ、四神をはじめとする個性あふれる東洋の神々の姿も精彩を放つ。さらに、エマの愛を阻む試練とは? 日本の文化やアニメにも造詣が深い作者が紡ぐ物語の親しみやすさは、若い世代をはじめ、大人の女性、さらには純粋な武術愛好家、そして香港や中国を愛する人々をも魅了するに違いない。
「私の物語がアジアで人気になるとは思ってもみませんでした。もともとは武侠ドラマへのオマージュとして、西洋の読者に向けてアレンジして書いた作品です。1983年に広州で中国人と結婚。ちょうど中国が西側に開かれたばかりの頃で、現地の多くの人たちにとって、私は実生活で目にするはじめての西洋人でした。夫の文化になじみ(特に食べ物-飲茶が生活のささやかな楽しみになりました)、10年が経ち、私たちは香港に移り住みました。普通語は勉強していましたが、香港の人は広東語を話すので、そちらも学ばなければなりませんでした。
「中国人の妻」となって20年、そのうち10年はオーストラリアで、その後の10年は香港で夫の家族の一員として過ごし、中国文化に深く傾倒していた私は、それを自分の家族や友人と共有したくなりました。香港での生活について、さらりと手記を書いてもよかったのでしょうが、それでは私が体験した驚きをともにする楽しみは到底味わえないでしょう。香港でのお気に入りの1つが、毎晩放映されていた武侠ドラマでした。当時は「包判事」シリーズが一番人気で、テレビでは夜な夜な、恐れおののく農民たちに包判事が「処刑!」と木札を投げつけていたのです。
武侠ドラマのすばらしさを伝えようと決心しましたが、それを西洋の読者のためにアレンジしなければなりません。主人公はオーストラリア人の女性にしました。オーストラリア人の読者が自分自身に重ねられるような人物が望ましいと考えたからです。残りの登場人物については、中国神話を徹底的に研究し、膨大な調査をして物語を書きました。姉が楽しめるように、そして、武侠ドラマがどんなに楽しいかがわかるように!
中国人コミュニティから、これほど多くのお褒めの言葉をいただけるとは思っていませんでした。ここオーストラリアには中国系オーストラリア人のファンの皆さんがおり、「正しい理解」に感謝している、とファンの集いでたびたびお礼を言われます。もし、私の敬愛する日本の読者の皆さんにもこの物語を楽しんでいただけるなら、予想できなかったほどの成功を収めることになるでしょう。この尊い文化に対する私の西洋的な解釈が、再びアジアに戻されるのだと思うと、とても光栄です。日本の読者の皆さんがこの物語を満喫し、中国武術と歴史ファンタジーロマンスのすばらしさへのオマージュであるこの作品に、香港在住中にそれらを目にして私が感じた大いなる楽しみを、同じように見出してほしいと願っています。」
作者カイリー・チャンのウェブサイトはこちら。
『玄天 第1巻 白虎』から始まる9冊にわたる『玄天』シリーズを書き終えたカイリーは、現在、新たな『龍の帝国』シリーズを執筆中。新シリーズでは、日本が重要な舞台になるとのことで、2019年4月には2度目の調査旅行で来日(翻訳者との対面レポートはこちら)。『玄天』シリーズのスピンオフも執筆中―こちらも、成長したシモーネが日本の大学に留学するという設定とか。本当に、日本が大好きなんですね。