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実体のない幻の中で、常軌を逸した激しい恋を。
少女の心を永遠に縛る呪いの言葉、身分差の恋におちた少女たちの逃避行、誰からも愛されなかった者達の愛。
究極の愛の形を描く三つの綺譚を収録した短編集。
硬質な文体、女性的で柔らかい文体、翻訳文学調の文体、物語ごとに異なる文体もあわせてお楽しみ下さい。
鬱くしい愛の世界へ、ようこそ。
キーワード:難病、悲恋、冬、ネクロフィリア、心中、百合、主従、花、シリアス、切ない、耽美、純文学
(本作は「天泣の追憶」「黎明に咲く」に、新作「ただ一人の君へ」を加えた計3作品を収録した短編集となっております)〜第一夜「天泣の追憶」冒頭試読〜 娘は高嶺の山で囲まれた小村にて生を受けた。夏と冬が交互に来たる村に四季はない。夏には清々しい青草が茂り、清澄な川がせせらいだ。娘は家の裏手の川瀬まで出掛けては水浴びをした。活きが良い川魚を籠一杯に取ってきては、母と厨房で肩を並べた。両親は娘が立つこともままならぬうちに縁を分けた。両親は水と油の関係ではなかったが、思考の相違の蓄積が亀裂を生じさせたのだ。娘は逞しい母の手一つで育て上げられた。母親が一人娘の心を深愛で満たしてやっていたがために、娘は思いやりのある人間に育った。刹那に過ぎる夏が終われば、やがて厳しい冬へと移ろいゆく。山間に位置する村は積雪が深かった。冬には葉を落とした大樹の枝が銀化粧をし、結氷した川が水音を止める。濁った灰雲から神秘の白が冷めやかに降り注ぎ、大地を何処までも白銀に染め上げてゆく。生命の呼吸が途絶える季節。娘は冬が好きだった。
〜第ニ夜「黎明に咲く」冒頭試読〜 「あなたが良いわ」
金色の髪の少女は明澄な声を青空の下に響かせた。その少女の正面に立つのもまた、幼き娘である。彼女たちが居る場所は帝国に属する、ある伯爵家であり、正門を抜けるなり匂やかな花々が咲き誇る庭園である。伯爵令嬢である金髪の少女が五の歳を迎えるにあたり、昼なか、この庭園では侍女選びが華々しく執り行われていた。
侍女選びには、家柄を含めてあらかじめ厳しい選抜があり、残った少女たちのみが令嬢との面会を許される。そして令嬢と数時間をともにし、最も自分の侍女に適すると令嬢が判断した者一名のみが、彼女の専属侍女となるのだ。
〜第三夜「ただ一人の君へ」一部試読〜 初恋の人が死にました。
あの日のことを、僕は今も鮮明に思い出せるのです。柔らかな雪が絶えず吹雪いており、耳がきんと痛みを訴えるほどに寒い日でした。人が寝静まった深夜のことです。僕は金属製のシャベルを肩に担ぎ、小さな丘を登りました。
街の裏にひっそりと佇んでいる、寂しい丘です。太陽が出ている間であっても、この丘に寄りつく者はいません。悪霊が出るだの、一人で近付けば生きては戻ってこられなくなるだの、昔から悪い噂が広まっていたせいでしょう。人々はこの侘しい丘を避けておりました。