こちらのアイテムは2025/2/9(日)開催・文学フリマ広島7にて入手できます。
くわしくは文学フリマ広島7公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

おとぎ話集I

  • D-07 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • おとぎばなししゅういち
  • sousou
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 150ページ
  • 800円
  • 2024/5/19(日)発行
  • 「眠る前に読みたいおとぎ話」をテーマにした短編集です。
    全14編・全年齢向けで、1話あたり5-10分で読めます。
    はじめて文学フリマに出店したときから販売している本で、毎度の文学フリマで好評いただいています。
    そのうち「Ⅱ」をつくる予定で、タイトルに「Ⅰ」をつけています。

    収録作品

    1. プラムの樹の思い出
    2. 砂漠に消えたガラス玉
    3. クリスマスプレゼント
    4. ドラゴン退治
    5. アルテミス神殿の炎上
    6. ロツバの祈祷
    7. レア・オルバ姫の夢
    8. オオカミとの対話
    9. 名もなき村の賢者
    10. 天空を旅する人びとのかがり火
    11. どんぐりを集める女の子
    12. エルネスタと水たまり
    13. チーズの上澄みをくれる友達
    14. 炎売りの少女

    サンプル1(プラムの樹の思い出)

    ※第12回ネット小説大賞の1次選考通過作品

     戦争が終わり、生まれ育った町へ帰ったとき、最も衝撃だったのは、家の裏庭にあった、三本のプラムの樹がすべて枯れていたことだった。それらは私たち兄弟が生まれた日に植えられた、バースデーツリーだった。

     私は半ば倒壊した家のなかを歩きまわり、壁にピン留めされた何枚かの家族写真を回収した。他にも思い出深い品はいくつかあったが、荷物を増やすのはよくないと思い、写真以外には何も持たずに家を出た。東部戦線に近かったこの町は、戦争が始まって間もなく住人が退去した。踏み荒らされた畑に作物は一つもなく、噴水の水は涸れ、行きつけだったパン屋は、屋根が落ちて竈が白日の下にさらされていた。ブーツの底で砂利を踏みしめ歩く音が、やけに大きく響いた。私以外の人の気配はしなかった。それはここが、もはや町と呼べる場所ではないということを意味していた。

     故郷を捨てて、どこか遠くへ行きたい、と思うのはおかしいだろうか。私にとって故郷とは、家族がいる場所だった。だが家族はもうこの世に存在しなかったし、兄と弟の分身であった、あのプラムの樹も枯れてしまっていた。私は平和の地を探していた。あまりにも長い間、銃弾や砲弾の音、思い出すのもぞっとする臭いや、冷たい雨にさらされ続けたからだ。

    サンプル2(レア・オルバ姫の夢)

     殿方にとって結婚とは、財産のおまけに姫君がついてくるという程度のものなのである。まさに殿方に嫁ぐために船旅の途上にある、十四歳のレア・オルバ姫は、母上からそのように教わっていた。

     ずっしりと重たい衣装に身をつつんだ姫は、甲板に立ち、何羽もの海鳥が上空を旋回する様子を眺めていた。陽光のまぶしさに目を細めると、顔にさっと影が差した。房がいくつも垂れ下がった、豪奢な日傘が視界に入る。姫は傘を支える手元を見た。

    「ノラ。鳥が増えたようだけど」

    「ええ、姫さま。陸が近いのです。明日にはシル河に入るそうですよ」

     そう、と姫は答えた。

    「姉妹のなかでは私が一番遠い国。つまり、父上にとっては一番どうでもいい国ね。もう二度と、父上と母上には会えないのかも」

    「恋しいですか?」

    「そうね、少しは」

     海鳥が一羽おりてきて、甲板の手すりに止まった。そのまま羽づくろいをしはじめる。姫はゆっくりと歩を進め、手すりに手をかけた。ノラが日傘を掲げてつづいた。

    「アラハマ王国は温暖で美しい国だと聞きます。エストラントでは見られない花々や果物もたくさんあるそうで……。きっと姫さまも気に入りますよ」

    「そう。温かいのはいいことだわ」

    サンプル3(炎売りの少女)

     ぼくがその少女と出会ったのは、自らつくった幾編かの詩が仲間うちで酷評され、やけになって何軒もの酒場を渡り歩いたあとだった。ぼくはふらふらと歩いているうちに、飲み屋街から逸れた、見知らぬ路地裏に迷い込み、石畳の上にうつ伏せになって眠り込んでしまった。目を覚ましたとき、あたりがあまりにも暗かったので、家の寝台に横になっているのだと思った。人間の帰巣本能というものは、なかなか捨てたものではないらしい。そう思った矢先だ。あのう、という声がした。

     首を動かし、声がしたほうを見ると、色とりどりのランプが下がった店先に、少女が小さなカウンターを構えていた。カウンターの上では、いくつもの炎が、等間隔に並べられ、浮かんでいるように見えた。それらが少女の豊かな巻き毛と、大きな瞳をぼんやりと照らしだしていた。ぼくは興味を惹かれて起き上がると、カウンターのそばへ寄った。少女が微笑みかけた。

    「炎はいかがですか」

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