それは、夏の閃き。
瀬戸内の夏フェスで出会った二人の女性の「夏の同盟」が、いま始まる。
「Summer Inspiration」
「え、うそ、ビール美味しい」
七海はそれまでビールの苦みがいまいち好きではなかったのだが、今飲んだビールはキュッとした喉ごしと後からついてくる苦みがとてつもなく美味だった。
彩夏はにやりとした笑顔を見せてさも自慢げに言う。
「でしょ~? フェスで飲むビールは最高なんだよ!」
「ほんと、美味しいこれ」
七海は目を丸くしながらビールを喉に流し込んでいく。良く冷えたビールは火照った体に染み渡って心地良かった。
見ると彩夏は一気にビールをあおって、さっそく焼きそばに手を伸ばしていた。紙製の使い捨て容器の蓋を開けると、レモンの爽やかな香りがふわりと広がり二人の鼻腔をくすぐった。地元特産のレモンをふんだんに使った塩レモン焼きそばは塩分が失われていた七海の身体にほどよく塩気を取り戻させる。
焼きそばを口いっぱいにほおばりながら、バンドのことや、好きな音楽について語り合う。まるで音楽に初めて出会った頃に戻ったかのように二人は夢中でおしゃべりに興じていた。
気がつけば、夏の光はすっかり赤く染まり、高台にあるテントサイトから遠くを見渡すと太陽が島陰にゆるゆると沈もうとしている。離れたステージで鳴り響く演奏音が海から吹き付けてくる涼しい潮風に乗って、二人の元まで届いてきていた。
「あー、なんか最高だなぁ」
ちかちかと頭上に瞬き始めた一番星を見上げて彩夏がつぶやく。七海も同じように空を見上げてつぶやいた。
「そうだね、こんなとこに住めたら最高だね」
しばらくの沈黙ののち、彩夏がぽつりと七海に言う。
「ねえ、二人でさ、本当に住んじゃわない? ここに」
(続く)