「生きるための「光」は、一人で見つけるべき。」
生きてきた時間のほとんどを、そう信じてきました。
しかし、地元の山形を離れ、大阪に住み始めた頃から、
少しずつその鎧が柔らかくなっていると思い始めます。
*
この変化には、彼と結婚するまでの「一年半にわたる西の街での暮らし」
が大きく関わっていると気付きました。
土地が、自分の考え方や生き方を変えた、なんて大袈裟かもしれませんが
私は西の土地で、そうなったと言わざるを得ないほど、もうかつての自分は遠いところに行ったように思います。
縁もゆかりもない西の街で出会った人たち、隣にいてくれた彼、そこで生まれた記憶の数々
婚約が決まり、生まれた気持ちには「幸せ」以外の幾つもの感情があり、
自分の家族のことや、彼の家族のことを考え
限りなく自分の内側に近いものに触れ続けたとき、これを言葉にしたいと強く思いました。
*
「光は、一人でも、誰かとでも見つけていいものだ」
そう思わせてくれた、暮らしの記録をこの本では残せたらと思います。
西の暮らしで集めた、私と誰かとの記録が、あなただけの光の発見につながりますように。
【目次】
はじめに
1章:突風の日々に
この時代の点灯夫は誰
無風の王国
気球から聞こえる
名前について
新しい名前
父への報告
彼の両親に会う
二人で帰省した日
結婚してから
2章:共に光を探す
暇と心地よいを怖がらないで
脳の旅
朝を嗅ぐ
花束の音
手に宿る、師匠の森
素直さと痩せ我慢
GOJIAI
プチ神様がいる家
第3章:霞の中を生きていく
大切なコップが星屑になった日
どうしようもない時
街を捉えて
言霊なのだから
本当の気持ち
舵取り
霞を食べ続けた後には
第4章:次の住処、山口へ
贈り物
ひさ坊から学ぶこと
次の住処を探す
引越しまで
終わりに
【はじめに】
生きるための「光」は、一人で見つけるべき。
何かに寄りかかることができる時代なんてとっくに終わったように思うし、かろうじて信用できるのは自分から生えているこの二本の足だけ。その足から地面には根っこを生やさずに、何にも縛られずに軽やかに生きていけるように。生きてきた時間のほとんどを、そう信じてきました。外からの刺激は当てにならない。自分の心にしたがって動けばきっと大丈夫。心無い言葉も、理不尽さだって跳ね返せる。仮にどん底に落ちたって、また光を探せばいい。そうやって、しなやかに生き抜くことが私の理想そのもので。
そんな理想は、環境に揉まれ、何度も壊れ、修復し続け、変わりつつあります。この変化には、彼と結婚するまでの「一年半にわたる西の街での暮らし」が大きく関わっていると気付きました。
生きるために「一人」で光を見つけるのが、常じゃなくてもいい。たまには「誰か」と共に光を探しに出ても良いのだと思えている今、あちらこちらに自分の知らない小さな光があったのだと気づきました。そんな光の存在を教えてくれたのは、彼だけでなく、西の街で出会った友人、もしくはすれ違った他人でもありました。どんなに小さな光でも、目を凝らして気づくことができれば、この生涯で希望を持って生き続けられるほどに、十分な光になります。そして光は集まって周囲を照らし、誰かの希望になるかもしれない。この本が、少しでもそんな光の一部になれたら幸せです。西の暮らしで集めた、私と誰かとの記録が、あなただけの光の発見につながりますように。
『霞を食べ、光を飲む』
著者 小林ひかり
装画・挿絵 大久保 澪
装丁 尾藤 大喜
校正 前田 稜汰
製本・印刷 藤原印刷株式会社