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優しい魔女のはかりごと

  • う-24 (小説|ライトノベル)→配置図(eventmesh)
  • やさしいまじょのはかりごと
  • 文染紡
  • 書籍|A5
  • 20ページ
  • 200円
  • 2019/10/20(日)発行
  • 魔女の息子たちのすれ違いと仲直りの話。

    表紙込みで20ページ

    【本文サンプル】
     魔女の森はうっそうと生い茂る草木が日を遮るせいで年中薄暗く、無数の獣や魔の物が跋扈していて、奥に入るどころか、この森を抜けようとする強者はいない。  しかし、この森には魔女が棲む。それこそが森の名称の由来であり、魔女に認められたもの以外は通り抜けられない魔の森となっているのだ。  だが街の者は知らない。魔女が死して久しく時が経ち、魔女の森に棲むのは彼女が育てた二人の息子だということを。そしてその二人がとても――仲が悪いということを。
    ◇ ◇ ◇
    「――またか」  湖の畔に建てられた魔女の家。かつては子供たちと魔女が暮らし賑わっていたその場所も、今では管理人が一人住まうのみ。その管理人は魔女の息子の一人にして、水を操ることのできる妖魔と人間のハーフであるネロ。  ネロが窓から覗いた先には、湖に降る花の雨。もう一ヶ月、毎日のように花が降っている。勿論、自然現象ではない。若干の苛つきを抑えながら、ネロは湖の水面を動かして、浮いている花を集める。妖魔の血をひいているからこその芸当だ。  ローダンセ(終わりのない友情)、ライラック(思い出)、カーネーション(永遠の幸福)、ガザニア(あなたを誇りに思う)、ナノハナ(明るさ)、プリムラ・ポリアンサ(無言の愛)、ワスレナグサ(真実の愛)、色とりどりの花に込められたメッセージが嫌でも目につく。  集めた花をぞんざいに陸地に放つ。花を降らせている犯人は分かっているのだ。直接手向けにこない奴の花を一秒たりとも湖に触れさせたくない、というのがネロの言い分ではあるが、花を降らせることになった要因はネロにある。それに、顔を見せたら見せたで手酷く追い返そうとするのだから、どちらにせよネロは不機嫌だ。  水滴を反射して輝く色水晶の花たちは、投げられた拍子に砕けてゆっくりと、陽炎が立ち上るように空気に溶けていく。  その様子を、ネロは更に機嫌を下降させながら見ていた。

    (中略)

     ――爆音と紅い炎が森を囲んだ。

    「はあっ……はあっ……」  痛い、苦しい、熱い、冷たい……死なないで。  燃える木々の中を突っ走りながら、ネロは家と向かう。森の外は敵に囲まれている。今外に出たら袋のネズミだ。何より、抱えている人を救うにはあの家にしか方法がない。  森を走り抜けるネロはまさに満身創痍といった風体だった。左足は銀の銃弾に撃たれ埋まったままの弾が毒となって全身を犯しているし、あちこちに切り傷がついて骨も幾つか折れ、炎のせいで火傷も負っている。人並以上の治癒力をもつネロでも、とても回復が追い付いていない状態だが、それでも走る。追っ手を森の住人たちが足止めしてくれている今しかチャンスはない。  森の際奥にある家までにはまだ火は届いていない。が、それもあとわずかだろう。行きも絶え絶えに家の中からありったけの薬をかき集める。ボタボタとネロ以上の血を流す彼を急いで止血して回復薬を彼にかける。じゅうじゅうと肉が焼けるような音がして耳を塞ぎたくなるが、そんなことに構っている暇はないのだ。毒に苦しみ悲鳴を上げる体を無視して、彼を治療し続ける。 「ネロ……もう、やめ……ろ……逃げて、くれ……」  喉をやられたのか、途切れさせながら紡がれる言葉を無視する。こんなところで死ぬ気も、死なせる気もさらさらないのだから。

    (中略)

     最後に見たのは魔女の優しい笑みだった。

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