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ル・シッドの告白

  • Eホール(1F) | F-31 (小説|BL)
  • るしっどのこくはく
  • 有沢縫
  • 書籍|A5
  • 800円
  • http://www.pixiv.net/member_i…
  • 2013/10/27(日)発行

  • P98/フルカラー表紙

    まさかのクレヨンしんちゃん どシリアスBL小説!
    風間トオル〈15歳〉に見るナルシシスム――――!

    己の価値を脅かすしんのすけという存在への依存
    不完全な自己愛・悲劇への耽溺

    しんのすけ×風間 クレしん10年後未来パロ!

    幼少期のトラウマに苛まれるトオルは、しんのすけと再会し、 彼の変わらぬ姿にずっとどこかで憧れていたことを思い出す。
     しかしトオルは汚れた自分と明るく人気者である彼との差、 何より男同士である事実に諦念を抱くが――。
      クレしんでこれかよ! ながっつり文体で描く大問題作!

    ※二作品目には直接的な性描写があります。苦手な方はのりづけして読んでね! 笑


    サンプル――――――――――――――――
    「ル・シッドの告白」

     この悪癖が根付いたのがいつごろかはわからない。ただ今は確実にそれが身体を蝕んで、やがて精神まで到達したのである。自分はあくまで被害者であり、哀れなのだ――――。この甘い悲劇の誘惑は、いつしか僕の心を囚えて離さなくなった。しかし最終的に自分を殺すことが理想の集大成であるという考えはない。あくまで生きていたいのだ。死の美しさを知らないわけではないが、決してそれに快楽、羨望を見出すほど芸術的な美学に囚われているわけではない。今も昔も変わらずに、自分を誰よりも高い位置に置き、優越に浸る。完璧な存在でいることは決して脅かされない。ただ、その汚れなき存在である自分を、完全である自分を、いつしか汚されることに憧れを抱いていた。
       それでも僕は、脅かされない。表の顔は、いつでも誰もが知る、「風間トオル」なのだ。

     男である立場、優秀者であるという事実、それを一貫させていた人生。ときにそのレッテルが苦しいことがあろうとも、そのレッテルに与えられる優越によって幾度も苦痛を乗り越えてきた。塾に行かないと泣いた日の自分がいとおしい。逃げるように無断でしんのすけの家に泊まったこともあった。あの頃の自分はどこまでも至純で、優越をただの優越として小さな手で見せびらかして満足を得た。勉強の甲斐あって私立の小学校に入学した喜びは何よりの自信になったし、将来のヴィジョンを見た父母の、はちきれんばかりの先走った笑みを見ては満たされた。思えばそれは早い親孝行のつもりであり、親の喜びのために受験したようなものであった。
       別れの予感は哀しいものではなかった。未来への希望に顎を上げ、ただそれにだけ向かって走っていた僕にとって、一般人に分類される仲間との別れとは、優越に浸るために必ず必要な人生のフラグメントであり、絶対的な条件であると思っていた。その先にある淋しさを見つけるほど、当時の僕の脳は暇ではなかったのだ。
       しかし新たな環境で、自分に似た鼻にかけた子供たちと生活するようになり、すぐに物足りなく感じるようになったのであった。思えば、うまくゆくはずだった未来のヴィジョンは、そのときすでに崩れ去っていたのだ。
       気づけば、母の理想とする完璧な児童のみで構成された友人像はそこにはなく、落ちぶれた、それでいて明るく誰にでも嫌われるように好かれる、そんな存在である級友らに自然と惹きつけられるようになっていた。
      しっかりしろよ、そんな口癖を発するのは昔から自分ばかりであると思い込んでいたが、最後にそう言われるのは、いつも自分のほうだった。  薄くて硬質で、それでいて古城の防壁のように、高く細工のしかけられたプライドという名の壁がもろくも崩れ去るとき、それを仕掛けるのは、そういった仲間たちなのである。一度崩れた壁は、どれほど完璧に立て直しても、すでに仕組みを熟知した相手には安易に乗り越えられてしまう。こうして自分の中に入り込んできた最初の人物は、野原しんのすけほかならなかった。

    (サンプル・了)

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