アンフォルメル 1
- 南3-4ホール | か-58 (評論・研究|サブカルチャー)
- あんふぉるめる
- ヒナタ
- 書籍|文庫判(A6)
- 156ページ
- 500円
- 2026/11/8(日)発行
『アンフォルメルⅠ』
文学、映画、哲学、独白、漫画。異なる表現形式を一冊に収めた、非定型の文庫本。
「アンフォルメル」とは、フランス語で「非定型」を意味する言葉です。1940〜1950年代のヨーロッパにおいて、既成の造形秩序にとらわれない抽象美術の動向を指す言葉として用いられました。
本書は、その「非定型」という概念を、文章と造形の双方から実践しようとした一冊です。
2026年9月から10月にかけて執筆・制作した回想録、映画・文学についての随筆、哲学的断章、独白、漫画、そして安部公房論を収録しています。
一見すると無関係な作品群ですが、その底には、自己と他者、具体と抽象、認識と現実、内側と外側、そして表現すること自体への関心が存在しています。
単なる評論集でも、エッセイ集でも、詩集でもありません。異なる形式が同じ一冊の中で接触し、時には互いに矛盾することも含めて、本書を構成しています。
【収録内容】
Ⅰ.断片Ⅰ――文学と映画をめぐる回想と雑録
庵野秀明監督『ラブ&ポップ』『式日』、太宰治『女生徒』、ダニー・ボイル監督『トレインスポッティング』、夏目漱石と森鴎外の個人主義などを取り上げた随筆群です。
映画や小説を鑑賞したときの個人的な印象を起点として、作品の構造や登場人物の意識を考察します。
例えば『ラブ&ポップ』では、カメラによって記録された映像と、変化し続ける日常との関係を検討します。また、漱石と鴎外をめぐる文章では、「個人」とは何か、自己と他者の個性はどのように両立するのかを考えます。
作品の批評であると同時に、作品を通して自分自身の認識を確かめるための記録でもあります。
Ⅱ.独白――言葉と造形による実験
「歪み」「差異」「主観」「認識」「自己」「存在」といった概念をめぐる、哲学的な独白を収録しています。
文章は必ずしも連続した論理によって展開するのではなく、断片的な思考や概念の組み合わせとして提示されます。
また、本章では文章の内容だけでなく、その配置自体を表現の一部として扱っています。
幾何学的な線、粒子、抽象図形、濃淡、余白。文字の大きさや方向を変化させながら、思想と視覚表現の関係を探ります。
言葉を読むことと、言葉を見ること。その二つを同時に経験するための実験的な章です。
Ⅲ.断片Ⅱ――創作、孤独、時間、そして記録
ブックオフを訪れた日の記憶、新海誠監督『ほしのこえ』、諏訪敦彦監督『2/デュオ』、星新一『症状』、平野勝之監督『監督失格』などを取り上げています。
特に『ほしのこえ』については、二人の登場人物の間に生じる時間の隔たりと、それによって変容する関係性を考察します。
また、安部公房の読書会に参加した経験や、自身の執筆活動を振り返る文章も収録しました。
作品をどのように解釈するかだけでなく、そもそも何かを創作するとはどういう行為なのか。自身の経験を交えながら、その可能性と困難について考えています。
Ⅳ.PLAIN――実験漫画
全34ページのオリジナル漫画『PLAIN』を収録。
生物の変態に伴う神経細胞の消失と再構築という現象を手掛かりに、身体、記憶、意識、変容といった問題を扱っています。
具象的な人物描写と抽象的な図像を交錯させ、通常の物語漫画とは異なる表現を試みました。
本書において、文章から視覚表現へと大きく展開する章でもあります。
Ⅴ.安部公房論――予感される残影
本書の最後には、安部公房の小説をめぐる評論を収録しています。
中心となるのは『方舟さくら丸』と『箱男』の二作品です。
『方舟さくら丸』については、閉鎖空間としてのシェルターがもたらす内外の反転を考察し、結末の解釈に別の可能性を見いだそうとします。さらに、六価クロムによる身体変容という作中の設定を、科学的知見と照らし合わせながら検討する試論も収録しました。
『箱男』については、見る者と見られる者の関係、箱の内部と外部、写真と身体、記録と自己の問題を扱い、スーパーフラットの概念と接続しながら考察しています。
そして最後の「余談:『箱男』のラストについて」では、結末における空間の変容や身体の状態に着目し、ある一つの仮説を提示します。
あの結末は、箱男自身の首吊りを暗示しているのではないか。
もちろん、これは確定的な答えではありません。本文の描写から導き出しうる、一つの解釈の可能性です。
安部公房の小説がもつ多義性を前提に、従来とは異なる角度から作品を読み直すことを試みています。
【本書について】
本書に収録した文章や図像は、必ずしも一つの思想や主題へと収束するものではありません。
個人的な回想から始まった文章が映画批評へと変わり、文学についての考察が自己の問題へと接続され、抽象的な思考が視覚的な造形として表現される。
そのような形式の移り変わり自体が、本書の特徴です。
本書の冒頭には、次のような考えを記しました。
「具体と抽象が融和するとき、両者は互いに隔絶されていく。」
具体的な経験について書いた文章が、抽象的な問いを生み出すことがあります。反対に、抽象的な思考が、極めて個人的な経験に結びつくこともあります。
こうした異質なもの同士の関係を、あらかじめ一つの形式にまとめるのではなく、異なるままに一冊の中へ配置しました。
安部公房、夏目漱石、太宰治、庵野秀明、新海誠などの作品に関心がある方。文学や映画を単に鑑賞するだけでなく、その表現や思想について考えることが好きな方。そして、実験的な文章、漫画、タイポグラフィ、前衛的な書籍デザインに関心のある方に、手に取っていただければと思います。
読むことと、見ること。考えることと、作ること。その境界を行き来する、非定型の一冊です。
